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*本記事は,日経エレクトロニクス2010年3月22日号に掲載した内容を一部抜粋したものです。記事は,執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります。

米国の電子書籍市場をAmazon.com社とともに牽引してきたソニー。「2012年度に電子書籍市場で世界シェア40%を目指す」(同社)と鼻息が荒い。同社で電子書籍事業を統括するSony Electronics社の野口氏に,電子書籍市場の展望や同社の事業戦略などについて聞いた。

(聞き手は内田 泰,小谷 卓也=日経エレクトロニクス


電子書籍市場がにわかに騒がしくなってきました。

Sony Elecronics社の野口氏(写真:加藤康)
Sony Elecronics社の野口氏(写真:加藤康)
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 市場としては,まだ初期段階だと思います。もちろん日本にとってはこれからの市場ですし,先行する米国でも端末の市場規模は年間数百万台程度。携帯型音楽プレーヤーの市場規模は米国で年間4000万~5000万台といわれていますから,比較するとまだまだ小さい市場です。

 しかし,今後の電子書籍市場は,過去の音楽配信や映像配信のときとはケタ違いに速いスピードで拡大していくでしょう。我々は既に音楽や映像の世界で起きたデジタル化をリアルに体験してきています。それと同様に書籍も間違いなくデジタル化していくことを,誰もが認識しているからです。

実際,電子書籍市場には有象無象の企業が参入してきています。

 私自身もびっくりするほどの数の企業が参入しています。しかし,その中で多くの人が名前を知っている企業はどれだけあるのでしょうか。既に撤退した企業も幾つかありますし,すべてが残っていくわけではありません。端末からコンテンツまでを含めた総合力,サービスの信頼感,そしてユーザーにメッセージをきちんと伝えていける企業のみが残っていくと思います。

端末では,ハードウエアの仕様よりも操作性やUIの差異化が重要になってきています。

 Reader Daily Editionでは,UI面でもいろいろ工夫しました。例えば,リンク個所を選択すると,リンク部分の表示が反転します。実は,この機能は,私が設計者にお願いして入れてもらったんです。

 (電子ペーパーの場合は)表示が切り替わる動きが遅いので,リンクを選択しても反応しているかどうかが分かりづらいのです。ユーザーによっては,もう一度リンクを選択する人も出てくるでしょう。ですから,選択したという事実をまず,ユーザーにフィードバックする必要があると考えたのです。UIで大事なことは,「あなたの言ったことは聞こえたよ」と教えてあげることですから。

UIの開発に定評があるApple社が,「iPad」を発表して電子書籍市場に参入しました。

 iPadは,電子書籍のためだけに作られた端末ではありません。いろいろなアプリケーションがある中で,「電子書籍も読めます」という提案です。我々の目指すものとは異なります。

 我々の端末には「Reader」という名前を付けています。これは,Reading専用の端末だということを宣言しているわけです。決してマルチメディア端末ではありません。

 Reader Daily Editionは,我々の電子書籍端末としては初めて3G通信機能を内蔵し,Amazon.com社が築いた素晴らしいビジネスモデルと同様の仕組みを取り入れました。つまり,ユーザーは通信を使っても月額料金などを負担する必要がありません。

 一方,iPadでは3G通信の使用料はユーザーが負担することになります。その点で,私はiPadにビジネスモデル面で革新性があるとは思っていません。

専用端末といえども,今後はコンテンツの多様化に伴ってカラー化への対応も求められそうです。

 端末のカラー化については,基本的にカラー電子ペーパーの開発状況次第です。ただし,最近のカラー電子ペーパーの開発品を見ていくと,動画表示の用途に向けているように感じます。もっと,きちんとテキストを読むことを重視してこそ,電子ペーパーのカラー化の意義があると私は思っています。ですから,電子ペーパーのメーカーには,それをお願いしているところです。

 電子ペーパーのカラー表示のレベルについては,インクジェット・プリンターのようなものだと思っています。初期のインクジェット・プリンターは,印刷すると紙がふにゃふにゃになって,色も満足できるレベルではありませんでした。ところが最近のインクジェット・プリンターは,グラビア写真を印刷しても十分に見ることができます。電子ペーパーも最初から満足のいくカラー表示の実現は難しいでしょう。しかし,市場が広がっていけば技術も進化していくはずです。

日本での電子書籍事業の展開(再参入)については,どのように考えていますか注1)

注1)ソニーは2010年12月10日に国内で電子書籍配信サービスを開始し,電子書籍端末を発売する。

 現在,我々は米国を含めて8カ国で電子書籍事業を展開しています注2)。コンテンツの量や質など,ある一定の基準をクリアした国から,順次事業を展開していくことになるでしょう。日本市場に再参入するかどうかも,その基準をクリアするかどうか次第です。

注2)現時点で米国を含めて13カ国で電子書籍事業を展開している。日本は14カ国目となる。

 書籍は文化そのものです。音楽や映像とは“文化度”が違います。本の開き方が右開きなのか左開きなのか,横方向に読むのか縦方向に読むのか。作法だって大きく異なりますから,各地域の文化を意識した商品作りやサービス作りをすることが重要になります。

 日本では,日本独自の書籍文化をきちんと意識した取り組みをしなくてはなりません。世界で今起きている電子書籍の動きをどのように取り込み,それを日本の文化に合うようにどう消化していくのか。我々の子孫,そして後世に,書籍の文化をどのように伝えていくのかという問題です。極めて重要な局面に,我々は立っているのです。その意識を強く持って電子書籍事業に取り組んでいくことが,非常に重要だと考えています。