連結経営を支える会計系のシステムというと、多くの読者は、ERPシステムを想起するであろう。

 全社的なERPシステムの導入の歴史的背景を振り返ると、リソース(人・もの・金)の実態を統合的に把握し、全社的に標準的手法での管理を可能にしたうえで、在庫(含む人的資源)・営業プロセス・会計(一義的には連結財務諸表の作成)を管理することを、導入プロジェクトのゴールに導入されたケースがほとんどではないだろうか。特に財務経理部門では四半期開示などの圧力もあり、タイムリーに売り上げ、損益、見通しなどを報告することが最優先になっていたと思われる。

 しかし、欧米企業に比べると、ERPあるいは専用のITの仕組みを利用して、全社的に財務管理・資金管理の領域にまで管理体制を構築したケースは、日本の企業では例が少ないのが現状と考えられる。

 世界を見渡すと、2008年9月以降の全世界金融危機に対して、最初の2、3カ月は多くの企業においてどのように運転資金(流動性)を確保し、月末・期末を乗り切るかというテーマが最優先であった。緊急対応が一服した現在は、改めてグループ会社全体におけるキャッシュの偏在を精緻に把握し、有効活用を図ろうという傾向は強まっている。

 さらに、キャッシュのエクスポージャー・財務取引全般に関して、統合的な観点でリスク管理(主に価格変動リスクとクレジットリスク)を実施できる体制を整えるというERMも重要視されている。

 日本を代表する製造業のアジア拠点で、本社から現地に出向した財務担当責任者が横領を行った事件など、“リスクの把握が不十分”であったようなケースも見られる。日本の企業では本社から派遣された責任者が見ていれば安心という性善説は、もはや通用しないと考えるべきであろう。“信頼できるソースからタイムリーな情報を元に財務諸表を作成する”というSOX法の求める原則に照らしても芳しくない。リスク管理の観点からは、リスクがあると認識された場合、そのリスクを把握し、対応をすることが当然求められるが、リスクがあり、それを防ぐ体制・仕組みがあるのであれば、対応するということは経営の責任とも言えるのではないか。

 今回は、会計系システムの中でも財務・資金の管理をグループ全体でグローバルに把握し、“見える化”を起点として、重要な経営資源キャッシュをより効率的に利用できる体制をITの活用で解決するためのアプローチについて解説する。

 “見える化”は、グループ全体の財務管理・資金管理を進めるに当たって、最初の一歩といえるプロジェクトと言える。後述のステップ4のような財務・資金管理の目指すゴールの部分については、従来より解説書・パッケージ製品の機能などが豊富にあるため、概略の記述にとどめ、なぜ“見える化“が必要で、そのゴールに向かうための段階としての経路についてより詳細に解説する。

グループ財務・資金管理は経営の責任

 組織的な観点からは、グループ内資金の統制は、内部統制の強化と連結経営の強化にも直結するテーマであり、経営層(特にCFO)自らがその有効性を認識して、率先してコミットするところが最も重要なポイントであると、先進的に体制を確立したケースでは繰り返し述べられている。

 日本のケースでは、パナソニックがその典型例であるが、従来、世界の地域別の金融子会社単位での資金管理をグローバルに集約したプロジェクトの発端は、当時経営陣の問題意識であったと言われている。同様に先進的な例として米国のGE(ゼネラル・エレクトリック)やオランダに本社を置くユニリーバ、米オラクルなども、経営層を始めとしたステークホルダーのコミットメントが不可欠な要素としている。

 さらに、グローバルに展開している企業ではそれぞれの地域、国において固有の事情(特に法制面、税制面)が存在する。

 今でも、それぞれの事情(調達や運用、決済)があるから他地域、グループ内他社に資金を融通することはやりたくないという議論が通用している企業もあるようだが、本質的にはその逆であり、グループ内各社が“連結経営”のベクトルに揃え、ツールとしては標準的なプロセスを活用することは、最終的に企業の企業価値を高めることに通じる。

 また、プロジェクトを進めるうえでは、ローカル・リージョナルのそれぞれの拠点がプロジェクトの目指すところ(ビジョン)を共有しておく必要がある。

 多くの先行例では、その目的とするところは、(1)財務取引を実行する各種オペレーションの透明化・標準化、(2)財務取引を行う権限の中央集権化とされており、その実現のためにはグループ全体をまたがった標準化が重要となる。グループレベルで標準化するためには、ITの活用は不可避な要素であり、結果として財務・資金管理システムが必要になってくる。