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 米Adobe Systems社が電子書籍市場に向けて大きく動き出した。同社は電子出版の総合的な制作ソリューション「Digital Publishing Suite」の一般提供を,米国で2011年第2四半期に開始する(日本での提供時期は未定)。電子書籍市場の“影のキー・プレーヤー”と言える同社に,米国の電子雑誌ビジネスの現状や戦略などについて聞いた。

(聞き手は内田 泰=日経エレクトロニクス

 今回は,Adobe Systems社 Director of Product Management Design&Digital PublishingのZeke Koch氏と,Sr.Business Development Manager Digital PublishingのNick Bogaty氏へのインタビューの後編をお伝えする。(前編はこちらをご覧ください)

Adobe社がDigital Publishing Suite(DPS)を開発した狙いを教えて欲しい。

Adobe Systems社 Director of Product Management Design&Digital PublishingのZeke Koch氏
Adobe Systems社 Director of Product Management Design&Digital PublishingのZeke Koch氏
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Adobe Systems社Sr.Business Development Manager Digital PublishingのNick Bogaty氏
Adobe Systems社Sr.Business Development Manager Digital PublishingのNick Bogaty氏
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Bogaty氏 電子データの制作ツールなどを販売するAdobe社にとって,顧客である出版社が繁栄してくれないと我々の繁栄もあり得ない。音楽業界ではコンテンツ所有者が配信のコントロール権を失ってしまったため,彼らのビジネスには音楽配信がマイナスになっている。これと同じ状況を電子書籍市場で作らないため,出版社が力を保てるように支援したい。

Koch氏 我々はこれまで制作ツールの提供にフォーカスしてきたが,最近ではサーバー側のサービスも提供している。DPSは電子雑誌の制作,配信と課金,分析まで総合的なソリューションを提供する。このために,Webの解析サービスを提供する米Omniture社などを買収した。

iPad向けに販売されている米Conde Nast社の電子版「Wired」は,DPSを先行利用して制作されている。この電子雑誌はどのようなフォーマットに対応しているのか。

Koch氏 我々で策定した「Folio」というフォーマットで制作されている。iPadに搭載された電子書籍ビューワは,このフォーマットに対応している。Folioでは,HTMLやPDFを使え,ビデオ,オーディオを埋め込むことができる。もちろん,HTML5に対応可能だ。現在,Folio形式の電子雑誌や書籍は30ほどある。

現在はiPadのみにしか対応していないが,将来的にはAndroid,WebOS,Blackberryのタブレット版である「Playbook」などにも対応していく。iPad/iPhoneはiOSベースだが,これ以外のプラットフォームの場合,Folioは我が社のAIRで書かれたビューワで動作する。

 ただ,今のところユーザー・インタフェース(UI)は最低でも7型のディスプレイ向けに作られている。2011年春ごろまでには,スマートフォン向けのUIも作る予定だ。

Adobe社のツールで制作されたAndroid搭載端末向け電子雑誌は,いつごろ発売される予定なのか。

Koch氏 最初の商用リリースは2011年2月になる。ただし,問題が一つある。例えば,Samsung社のタブレット端末「Galaxy Tab」とiPadは画面のアスペクト比が違う。iPad版と同じファイルを出版社が使うと,画面の両横に黒い枠が表示される。一部の出版社はこれを嫌い,デザインをし直すことになるだろう。

 こうした問題を解決するため,異なる画面に自動で対応する「Adaptive Layout」という技術の開発に取り組んでいる。ただ,現実には開発が難しいので導入にはやや時間がかかるだろう。おそらく2011年には,いくつかの出版社が,画面のサイズが異なる二つの端末向けに,自動で表示をスケーリングできる電子雑誌のアプリケーションを提供すると見られる。その一つが,Conde Nast社の「The New Yorker」になるだろう。

最後に,電子雑誌市場が成長するための課題は何だと思うか。

Koch氏 二つのチャレンジがある。一つは,現在のApple社のアプリ・マーケットの仕組みでは,定期購読ができない点だ。読者にとっては,雑誌のコストが高い。

 もう一つは,iPadは成功しているものの,まだほとんどの人が持っていないことだ。だから,競合のタブレット端末がどんどんでてこないと,普及は限定されてしまう。Amazon.comでは,ハードカバーの紙の本より電子書籍の方がよく売れているという。端末の選択肢が充実してエコシステムができあがれば,現在の問題は解決されるだろう。