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Q 共有アドレスから部内の全員に突然,「お前らみんな死ね!」という過激なメールが届きました。システム部門にログを調べてもらったところ,普段はほとんどしゃべらず,まじめに仕事をしている部下が送信者でした。今後,この部下にどう接すればいいのでしょうか。(男性,38歳,管理職)

 この部下が起こした問題行動の原因は,「失感情症」の可能性があります。失感情症とは,自分の感情やストレスを自覚したり,表現したりできない傾向のことです。IT業界だけでなく,どこの職場でもこのような人が増えています。

 失感情症といっても,ストレスがなくなっているわけではありません。無意識に抑圧しているにすぎません。抑圧されたストレスが限界に達すると,そのエネルギーは「情けなさ」や「孤立感」「怒り」といった感情に形を変えて噴き出します。

 「どうせ,僕のことなんか誰も分かってくれない」「私なんかいない方が皆は喜ぶ」「どうして自分だけがこんな目に」「皆がオレのことをバカにしている」「もう限界だ。いい加減にしてくれ!」…。こうしたマイナスの感情が急激にわき上がると,「死んだ方がまし」「死にたい」と考える「自殺念慮」や,周囲に対して攻撃的になる「他害行為」などの「行動障害」につながります。質問者の部下が送信した「死ね!」というメールは,他害行為に当たると言えるでしょう。

 失感情症はさらに,抑圧したストレスが神経性狭心症や不整脈,過敏性腸症候群といった身体症状となって表れる「心身症」の原因になることも知られています。

 では,失感情症が原因で問題行動を起こす部下に対して,上司はどう対応すればよいのでしょうか。

 最も大切なのは,「ストレスを言葉で発散させること」です。そこで,問題行動を起こしてしまった部下に積極的に話し掛けてください。「気の利いたことを言おう」とか,「相手のために注意してやろう」などと気負う必要はありません。「あのメールを見てびっくりしたよ。どうしたんだ」と,自分の気持ちを素直に伝えればいいのです。要は“雑談”です。

 その時,返事が返ってこなくても腹を立てないこと。その部下は無視したわけではなく,自分の気持ちについて話すことに慣れていないだけなのです。気長に構えましょう。徐々に会話が成立するようになり,相手が自分の内面をざっくばらんに話せるようになればしめたものです。

 問題行動には至っていなくても,ストレスをぐっとしまいこんでいる人は少なくありません。責任感が強く,まじめな人ほど,その傾向があります。どんなに仕事がきつくてもいつもニコニコしていたり,何を聞いても「大丈夫です」と答えるような部下は,かえって要注意です。そんな部下を見付けたら,感情を表に出させるように仕向けてください。そのためにはやはり,なるべく声を掛けて雑談することです。

 雑談が交わされるようになると,職場の雰囲気が和みます。フォーマルな状況では決して得られない情報も交換できます。雑談のそのほかの効用については,筆者が監修した「雑談力」(明日香出版)を参考にしてください。

武藤清栄
東京メンタルヘルスアカデミー所長
1974年東洋大学社会学部卒,76年国立公衆衛生院(現国立保健医療科学院)衛生教育学科卒。民間相談機関の「心とからだの相談センター」主任カウンセラー,サンシャイン医学教育研究所,秋元病院精神科カウンセラーを経て,現在に至る。関東心理相談員会会長。日本精神保健社会学会副会長。著書に「雑談力」,「号泣力」(いずれも明日香出版社),「本音力」(ロゼッタストーン)など