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株式会社MORE・CAL代表取締役社長 熊澤壽

 顧客企業のCIO(最高情報責任者)職を辞し、システムや仕組み、アイデアを売る立場になってから100社を超えるお客様を訪問させていただきました。

 それぞれの企業の抱える問題点やウィークポイントを確認することを通じて、IT(情報技術)投資における日本の企業の問題点を完璧に理解できるほどの情報を蓄えられました。海外の一流企業に比べて日本企業のITガバナンスは「不十分」というようなレベルですらなく、比較不能、論外なレベルであるという思いを強くしています。

 顕著な例をお話しましょう。ある情報子会社を訪問しました。親会社が株式を100%保有する子会社です。20人程度で親会社のシステム運用やネットワーク管理を行っているのですが、システム構成を聞いただけで、とんでもない非効率かつ高コストのシステム運用を行っておられるので、「2年間で投資回収ができて、3年目からは1億円以上の利益が出る方法があります」と、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)も含めた提案をしたのです。

 ところが、このIT子会社社長の発言には驚かされました。「運用コストを半分になんかされたら、我々が食っていけないじゃないか!!」と怒るのです。

 実は、ほかの幾つかの企業の社長からも私は同様の怒りを買ったことがあります。一体IT投資をどのように考えているのでしょうか? IT投資によって利益を出すことが問題であると考える人たちが信じられないほどたくさん居ることに、驚愕しました。会社の利益はどうでも良いという文化が根付いていることは間違いありません。

 別な例です。倉庫業務を100%外注化している企業がありました。以前流行した「本業以外は外注して、本業に特化するべきだ」というコンサルタントやITベンダーの口車に乗って(もちろん成功例もありますが)、工場の敷地内にあった倉庫をITシステムとともに外部に全面委託していたのです。景気の低迷が続き、会社は赤字に転落してしまいました。

 早速IT部門は業務の取り込みを考えました。彼らのアイデアは現存する基幹システムに、倉庫管理システムを導入し、工場の余剰スペースと余剰人員を使って、倉庫業務をすべて引き上げるものでした。ROI(投下資本利益率)は驚異的で、1年目で初期投資額を回収し、翌年から1億円以上の利益が見込まれる最高の解決策でした。しかし、役員会は彼らのアイデアを採用しませんでした。

 その理由は何だったと思いますか?たった1つです。外注先はその企業1社だけの仕事で生存しているために、契約を切ることは同時に会社を倒産させることになるからです。なるほど、地域社会への責任を考慮した判断といえるでしょう。

 しかし、ちょっと待っていただきたい。そのおかげで工場は人余り現象が発生し、赤字は増大し、リストラを余儀なくされ、昇給も賞与も大幅なカットを行っているのです。「本末転倒」と言わずして、何と言えばいいのでしょうか。

 「そんなアホな」と思われた方々もぜひとも注意していただきたいと思います。このような話は氷山の一角です。外注ではなくとも、社内の部門間の構造に目を向ければ同様な話が山ほど存在することに気づかれていないのではないでしょうか?

 ある企業に、ワイヤレスバーコードシステムの導入を勧めました。そのシステムを導入すると倉庫人員は半分程度に削減され、情物一致が常に実現し、棚卸しの時間も部品・製品探しの時間も必要なく、タイムリーに効率よく生産現場を動かすことができる解決策でした。そのうえに、試算上の償却期間はわずか1年という説明を2時間かけてさせていただき、IT部門の方々は驚かれ、関心を示されました。ところが結局、倉庫に1台ある端末にバーコードシステムを追加するだけという決定をなさいました。

 その理由を聞いてこれまたビックリです。入出庫業務やピッキング業務を行う従業員の方々の大反対です。要は「今までバーコードなんか使っていなかったのに、そんなシステムが導入されると検品以外に新たに業務や知識が多く必要になるので勘弁してほしい」と言ったというのです。

 彼らの頭の中では、倉庫全体の管理や、運用コスト、生産性の向上、さらには利益性や正確性の向上など全く関心外なのです。さらに問題なのは、このような悪しき“社内民主主義”に簡単に負けてしまうIT部門のひ弱さです。しかもこうした力関係が、そこかしこの企業に存在しています。

 最後にもう1つの例を。ある商社では営業担当者2人に1人の割合でアシスタントが付いています。この環境は、創業者の「営業マンは営業活動に集中する!!」という思想に基づいて延々と続いているのですが、ご多分に漏れずその企業も赤字に転落しています。

 そもそも間接要員が異常に多いことが最大の問題であることは社内の全員が認知しているのですが、創業者のご意向には逆らえないということで全く環境は変わりません。「営業担当者は営業活動に集中する!!」という方向性は間違いではないのですが、営業担当者をサポートする間接業務はすべて人間でしかできないという固定観念がどうして払拭できないのでしょうか?

 この企業に関してはシステム構成や業務内容などを細かくインタビューしていませんが、IT投資により少なくとも年間数億円のコスト削減ができるのは簡単に予測できます。しかし、「合理化を進めること自体が創業者のご意向に背く」という短絡的な発想が文化として根付いてしまっているために、役員ですらこの環境に何らの疑問も持たず、方策も打たず、ありきたりの経費削減活動に血眼になっているという状況なのです。

 以上のような日本企業におけるIT投資の惨状のほとんどは、中間管理職の覚悟の無さに原因があると私は考えています。現場の意見に逆らえず部分最適に走り、ITのことが分からない役員による思いつきのIT投資のアイデアや間違った投資判断に抗弁できず、会社の将来をにらんだIT投資の理想形や利益を極大化させるBPRの推進などはみじんも考えない、そんな中間管理職があまりにも多すぎます。

 経営者には優秀な方々が多いと思っています。しかしその経営者に現状や理想形を具体的に説ける人材の欠如が、日本のIT投資をここまで悲惨なものにしてしまっていると思うのです。もっとも、優秀な中間管理職の人たちを優柔不断で覚悟を持たない人材にしてしまったのは、代々の経営者が作った悪しき“事なかれ文化”である、ということも忘れてはなりません。

 経営者の方々には、中間管理職が恐れなく堂々と会社の将来を考えた意見やアイデアを進言できる環境と文化を作っていただきたいと思います。このままでは日本企業だけが世界から取り残されてしまいます。IT投資は莫大な利益を生むのです。

熊澤 壽(くまざわ ひさし)
独立系IT・ビジネスコンサルティング企業、株式会社MORE・CAL代表取締役社長
熊澤 壽(くまざわ ひさし) 1957年生まれ。CSKを経て、1985年にネミック・ラムダ(現TDK-Lambda)入社。同社にて取締役マーケティング本部長や海外子会社社長、執行役員BPR推進室長、執行役員情報システム本部長、執行役員管理本部長を務めERPの全社導入やJ-SOX法対策を指揮し、インド系IT企業の代表者をした後に独立。2010年4月より現職。株式会社MORE・CALのホームページ。ITproにて『“抵抗勢力”とは、こう戦え!』を連載。