ITへの期待は、スマートシティに代表されるように、大きく変わってきました。本連載では、5年後、10年後、さらには20年後を見据えた長期的なビジョンを描き出すために、ITが果たすべき役割やこれからのシステム像を考察します。前回は、スマートグリッドやスマートシティなど、“スマート”が重要なキーワードに浮上してきた背景を考えてみました。今回からは“スマート”の背景にある情報技術とビジネスについて振り返ってみましょう。

 米IBMが2008年に発表した「Smarter Planet」という発想は、一夜にして出てきた訳ではありません。ある種の必然性を持って登場したものです。技術的には、ムーアの法則に代表される半導体の集積度や性能の数十年にわたる指数関数的な進歩と、それにともなう仮想化、コンポーネント化、サービス化の流れがあります。

仮想化がアプリケーション層にまで広がる

 特にサービス化はインターネットの登場とともに加速され、ネットワークを経由したサービス化の道、それに伴うサービスデリバリーの技術とともに発展してきました。それらは、コンピューターの黎明期から取り組んできたRAS(Reliability:高信頼性、Availability:高可用性、Serviceability:高保守性。参考文献)や、「Autonomic Computing(オートノミック・コンピューティング)」といった信頼性の技術に支えられています。

 そこでは常に、性能の向上がオーバーヘッドを凌駕し、仮想化が推進されてきました。それに伴って仮想化は、ハードウエアのレベルからオペレーティングシステム(OS)、ミドルウエア、アプリケーションへと広がりました。またグリッドコンピューティングが登場したことで、「仮想組織(Virtual Organizaton)」という、組織を超えて情報を共有し、仮想組織でタスクを達成するという考えが生まれてきました。

 こうした流れがビジネスをより柔軟にダイナミックに変遷させるためのSOA(サービス指向アーキテクチャ)につながります。そこでは、ビジネスのコンポーネント化と、その統合が焦点になります。SOAによって、グローバルに資源を共有し、タスクを実施できるようになったのです。

 並行して消費者側では、インターネットの発展とともに、インターネットからの情報発信や情報検索、ネットコマースといった様々なインターネットサービスが提供されるようになりました。個人がネットワークを通じてサービスを受けたり情報を提供したりすることが“自然”に行われるようになってきたのです。

 この変化は、ビジネスにも大きく影響を与えます。ネットワークを通じて標準化されたサービスを早く・安く提供し、組織を超えて新しい価値をITサービスの形にしていくクラウドコンピューティングの進展へのつながりです。

 ここまでくれば、Smarter Planetや「サイバーフィジカル・システム(CPS)」(関連記事:実社会を取り込むCPS(サイバー-フィジカル・システムズ))への道はすぐそこです。

サービスをコンポーネント化する

 SOAやクラウドコンピューティングの肝は、提供する価値を標準化されたサービスとしてコンポーネント化し、そのコンポーネントを目的に応じて統合化していくことです。このコンポーネントがビジネスとして成り立つためには、高品質であることと、広く使われることが必要になります。だからこそ標準化が求められるのであり、アプリケーションから、企業、業種へと広がることは必然だったのです。

 企業・業種の次には、業界や社会、国といったレベルで標準化されたサービスという考え方が出てきます。これらが背景となり、社会インフラや社会サービスという視点が生まれます。つまりCPSが指摘しているように、サイバーの世界と物理的世界の価値をコンポーネント化し、それらをサイバー世界と物理的世界とに分けることなく統合化することで、新しいサービスを作るのです。

 これがSmarter Planetでも提唱している物理的インフラとデジタルインフラの融合した世界です。さらに、これらの背景には、「フェデレーティッド・データ」の世界があります。ありとあらゆるものからのデータを整理・格納し、情報や叡智として利用していくことが可能になってきました。以下では、これまでの流れについて、順を追って検証してみましょう。