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 人は職場でどういう支援を受けて学習していくのか。東京大学の教育学者である筆者による、きわめて実証的な研究報告書である。決して読みやすい本ではないが、引用されるデータは興味深く、課題が多い今の職場教育に役立つ提言がいくつも示唆されている。

 本書によれば、人々は職場で学習するとき、他者から三つの支援を受けるという。業務遂行に必要な情報を提供する「業務支援」、答えではなく気付きを与える「内省支援」、息抜きや安らぎなどの心の支えを提供する「精神支援」である。

 ITに関係ある分析結果は興味深かった。例えば、事務職と技術・SE職を比較した場合、業務支援と内省支援に関しては「支援が受けられている」割合が二つの職でほぼ同じだという。だが精神支援に関しては、「支援が受けられている割合」が事務職よりも技術・SE職のほうが顕著に低い。筆者が引用する、若手SEの証言が生々しい。「相手先で仕事するじゃないですか、みんな他人ですからね。(中略)下手すりゃ、誰とも話しません。孤独です」。

 情報システムの利用者の精神支援も低いという。ある営業担当者は、日々の活動結果を入力する営業支援システムについてこう述べている。「セールスフォース・オートメーションで見られるでしょ、という感じで、〔職場の人と〕話さなくなってしまうのです」。

 これら証言からシステム開発の職場、あるいは職場のITの在り方として重要な問題があることを示唆している。それはコミュニケーション不足である。現在、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の爆発的な普及によって、個人からマスコミまでコミュニケーションの取り方には文字通り革命が起きている。

 しかし残念ながら、日本のほとんどの職場ではSNSが導入されていない。企業が情報漏洩を恐れて消極的であることも考えられるが、そもそも職場のコミュニケーションが希薄になっているという状況を認識していない恐れもあるのではないだろうか。

評者:滑川 海彦
千葉県生まれ。東京大学法学部卒業後、東京都庁勤務を経てIT評論家、翻訳者。TechCrunch 日本版(http://jp.techcrunch.com/)を翻訳中。
職場学習論

職場学習論
中原 淳著
東京大学出版会発行
2940円(税込)