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 最近CRE戦略という言葉をよく聞く。これは「Corporate Real Estate」の略で、日本語では「企業不動産」と訳される。CRE戦略とは、企業が事業を進めていくうえで所有、貸し借りをするすべての不動産を経営の糧として捉え、その最適保有、最適活用を図ることを通じて企業価値の最大化を目指すことを言う。

 CRE戦略の結果、遊休地を売却するのがその典型だ。しかし、それだけではない。借りていたビルを買い取る、あるいは賃料の値下げ交渉をする、数カ所で借りていた倉庫を集約して自社倉庫を建て、空きスペースを他社に貸すといった手法なども含まれる。要するに、本社、支店、営業所、店舗、工場、研究所などの事業用施設だけでなく、社宅、保養所、遊休地、駐車場などの運用・福利厚生施設も含めた一切合切を棚卸しして見直す作業のことを指す。

政府への応用

 CRE戦略は政府、自治体の場合にも有効である。すでに一部では遊休施設の売却や転用が始まっている。その是非ややり方の妥当性はさておき、郵政民営化をきっかけとする中央郵便局やかんぽの宿の売却、あるいは旧国鉄の操車場の跡地開発はGREの一例である。しかしこれまでは、とにかく「売却して現金に変える」という方向ばかり議論されてきた。財政再建の足しにしようというわけである。

 しかし、CRE戦略では遊休地といえども、必ずしも売却はしない。よく見られるのは用途転換である。例えば工場の跡地をデベロッパーに貸して賃料を取る。一方、収益をもたらす賃貸ビルなどは保有し続ける。この伝でいくと、果たして独立行政法人が所有する不動産は何でもかんでも埋蔵金として取り上げるべきだったのかどうか疑問も出てくる。埋蔵、死蔵が問題なのであり、きちんとしたGRE戦略に沿ったものであれば、遊休地を独立行政法人が持っていてもよいのではないだろうか。

自治体での難しさ

 自治体の場合はどうだろう。自治体では、GREは単に資産や財政の観点だけではなく、街づくりの視点から展開する必要もある。要は単に自治体が自らの経営の最適化を図るだけではいけない。自治体は多くの場合、交通の要衝や一等地に土地を所有している。また地域内の10%から20%を超えるような土地を所有する大地主であることが多い。つまり自治体にとって保有不動産のGREは、単に経営の合理化のためだけではなく、都市計画や交通計画を展開する戦略プランでもある。

 筆者が大阪府の特別顧問として検討中のGRE戦略では、以下のような方策を検討中である。

(1)老朽化した公営住宅の用地を民間の高齢者専用の賃貸住宅に転用できないか

(2)リサイクルの進展と技術革新のおかげで、ごみ焼却工場は今までのようにたくさんはいらない。市町村の枠を超えた活用をすればいくつか廃棄し、新規建設コストもなしですむ

(3)利用者が減って稼働率が下がっている公営バスや水道などの公的サービス事業の施設(浄水場、車庫、操車場など)は思い切って廃止、集約化したらどうか

 振り返ってみれば、全国から注目を浴びたこれまでの橋下改革の案件の多くがGRE戦略関連である。その筆頭が府庁のWTC(ワールドトレードセンター)への移転である。「伊丹廃止」」発言で注目を浴びた関空問題も、実はGRE戦略の一環である。すなわち、発展可能性のない伊丹空港はいずれ廃止して、他の用途に転換すべきという考え方である。跡地の開発の可能性による経済効果なども勘案して、伊丹の民営化と関空会社との合併が決まった。

 GRE戦略はまだまだ始まったばかりである。当面は縦割りの各部門内での見直しから始まるだろう。だが、そこで忘れてはならないのが、全庁的視点、そして住民の視点である。各部門から見ると必要な土地でも、他部門が冷静に見ると不用と思う土地は多い。また住民の視点から見ると、国県市町村がばらばらに施設を建設し、無駄を生んでいるとしか思えない例も多い。首長、住民の目線に立ったGRE戦略を期待したい。

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山信一

慶應義塾大学総合政策学部教授。運輸省,マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。専門は行政経営。2009年2月に『自治体改革の突破口』を発刊。その他,『行政の経営分析―大阪市の挑戦』,『行政の解体と再生』,『大阪維新―橋下改革が日本を変える』など編著書多数。