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 一般向けのFTTHサービスを提供せず、全国の事業所や家庭まで張り巡らせた光ファイバー回線を他事業者に貸し出すことをメーン事業とするアクセス回線会社。NTT東西のアクセス回線部門を別会社化し、そんな会社に仕立てる。このアイデアは、NTTグループの経営効率という観点に限って見れば、理にかなっている面がある。

「資本の論理」でNTTに分割を迫る

 例えば、NTT東西の“解体”後にサービス部門として残る会社が一般会社となり、NTT法などの規制の対象から外れれば、この“NTTサービス会社”は事業領域の制約なく成長分野に進出できる。

 また、NTT東西がメタル回線と光回線に2重投資している非効率性についても、それをアクセス回線会社に負担させることで、サービス部門の採算性は高まるだろう。このアクセス回線会社が、NTTサービス会社を含むすべての通信事業者に対してオープン性を担保できれば、事業者間の競争条件も極めて公正に整備できるようになる。

 ICTタスクフォースでもこうした利点は認識していた。それでも、結論としては機能分離の徹底を選んだ。

表1●NTTの株主構成(2010年9月30日時点)
表1●NTTの株主構成(2010年9月30日時点)

 理由は、リスクを取って先行投資してきた事業者が不利になりやすい、アクセス回線会社の事業継続性が検証できないなど様々。その中の一つに、「NTTを構造分離する手段として、政治判断や行政上のルールで強制的に決めるより、NTTのオーナーである株主が、現経営陣に分割を迫る方が健全ではないか」(國領二郎・慶應義塾大学総合政策学部長)といった意見があった(表1)。

 この「資本の論理」でNTTに分割を迫るというアイデアは、アクセス回線会社設立を強硬に主張していたソフトバンクの孫正義社長の提案内容を受けて浮上したものだ。孫社長は、当初は全額政府出資の“公社化”で実現を訴えていたが、2010年10月後半から民間事業者も含めた“共同出資案”に切り替えてきた。共同出資案に切り替えた後は、「アクセス回線会社が実現するのなら、4兆円近くのリスクをソフトバンク1社で引き受けることになるとしても、出資する」と公言していた。

 NTTの時価総額はおよそ5兆5000億円(2010年11月末時点)。孫社長がアクセス回線会社設立に対してそれだけの資金を調達できるのであれば、発行済み株式を直接買い取り、過半数を押さえることも理論的には可能だ。

NTTの経営効率性には厳しい目も

 そうなれば、実質的な経営権を握った株主であるソフトバンクが、NTTの組織を分割すればよい。株主が議決権を行使して組織を分割するのであれば、NTT経営陣は従うしかないように思える。

 NTTに対する投資判断を行う金融業界からも、構造分離を肯定する声がある。ある通信アナリストは、「毎年1兆円の営業利益を安定して稼ぎ出す企業の時価総額が、解散価値(純資産価値)を下回っているのは異常な事態だ。自ら組織体制を変えて、経営効率を追求することが、株主への責任ではないか」と断じる。

 別の投資コンサルタントも、「メタルと光への2重投資はすぐにやめるべき」とし、アクセス回線部門の分割案を支持する。「国内市場が伸びない中で、ネットワークコストを圧縮し、利益を確保するという選択は当然の成り行き。ソフトバンクの提案は、実行する時間軸や、資産査定をどう精密化するかが難しいが、大局的には正しい方向だ」という。「仮にNTTが米国の一般的な上場企業だとしたら、この株価水準なら公開買い付けを受けて、不採算部門を切り刻まれてもおかしくない」(投資コンサルタント)。このように、株式市場を通じて、力づくで回線部門を分割することに一定の妥当性を認めるという声も広がっている。

 だがNTTには、公益に資するサービスを確保する特殊法人という別の顔がある(図1)。加入電話を、ほかに代替のないラストリゾート(最後のよりどころ)として維持することがそれだ。電話の契約者数が長期的に縮小していき、交換機の維持コストが高くつくことが分かっていても、ユーザーを強制的に光IP電話に移行させ、電話サービスを停止するようなことはしない。

図1●特殊会社であり上場企業でもあるNTTグループの二面性
図1●特殊会社であり上場企業でもあるNTTグループの二面性
公益性を重視するためにユーザー負担のかかる不採算事業の整理に時間がかかる。逆に、立ち上げ期に大きな投資が必要な光事業は獲得目標を下回っても料金引き下げによる拡大に動けない。
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