ITへの期待は、スマートシティに代表されるように、大きく変わってきました。本連載では、5年後、10年後、さらには20年後を見据えた長期的なビジョンを描き出すために、ITが果たすべき役割やこれからのシステム像を考察します。前回から、スマートグリッドやスマートシティなどの“スマート”の背景にある情報技術とビジネスについて振り返っています。今回は、サービスを構成するための情報技術を振り返ってみます。

 前回、米IBMが2008年に発表した「Smarter Planet」という発想は、一夜にして登場した訳ではないと説明した。その必然性について、技術的には、ムーアの法則に代表される半導体の集積度や性能の数十年にわたる指数関数的な進歩と、それにともなう仮想化、コンポーネント化、サービス化の流れがあることを指摘しました。こうした流れの中で登場したのが、オートノミック・コンピューティングであり、SOA(サービス指向アーキテクチャー)やクラウドコンピューティングです。

ITサービスが求めたコンピュータの自律性

 ITサービスが社会性を帯びるにつれ、IT基盤は社会に欠かせないクリティカルなインフラストラクチャーになるとともに、ITサービスのサービスレベルを担保することが非常に重要になってきました。

 分散されたヘテロな構成で、しかも、特定の使われ方や使用者を想定できないオープンなシステムにおいて、サービスレベルを担保し、予測不可能な事態に備えることが求められます。さらに異常時への対応策および予防策も必要です。これらに対処するために、IBMが2001年に提唱し始めたのが「オートノミック・コンピューティング」(参考文献)です。

 10年を経た今では、耳慣れない言葉だと思われる方も多いでしょうから、オートノミックという言葉から説明します。オートノミックは、自律神経系(Autonomic Nervous System )から来た言葉です。人間の自律神経系のように、コンピューターシステムが状況に合わせて自律的に問題に対処することを目指したのです。

 例えば、人間の体は本人が意識しなくても、暗いところでは自律的に瞳孔が開いたり、暑くなると汗をかいたりします。オートノミック・コンピューティングでは、上記のようなことをコンピュータが自律的に自己を制御する「自己管理システム(Self Managed System)」と呼んでいます。ここでは、自律性の基礎となるポリシーに基づいたシステム(policy based system)を作ります。

 図1は、オートノミック・コンピューティングの四つの要素、(1)自己構成(self configuring)、(2)自己修復(self healing)、(3)自己最適化(self optimizing)、(4)自己防御(self protecting)を示しています。

図1●オートノミック・コンピューティングの概念
図1●オートノミック・コンピューティングの概念
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(1)自己構成:環境の変化に応じて自律的に様々のシステムパラメーターやシステム、アプリケーションの構成を変更する
(2)自己修復:システムやアプリケーションの状況を判断し、不具合が起きたときに自律的に修復する
(3)自己防御:ウイルスやハッカーなどの外部攻撃に対して、その脅威を判断し自律的にウイルスを排除したり、それらの影響が広がらないように行動を起こしたりする
(4)自己最適化:システムやアプリケーションの動的な変化に応じて、システムの構成やパラメーターの最適化を図る

 このように自律型コンピューティングは、その周りで起きていることを把握し、対応策を判断し、アクションを起こします。このときの判断基準となるのが、ポリシーとしてシステム管理者の方針です。システムは、このポリシーに従って判断しアクションを起こすのです。

 ポリシーには、どのようなアクションを起こすかも、あらかじめ規定しておきます。このアクションの中には、人間の注意を喚起するものも入っている点に注意する必要があります。オートノミック・コンピューティングの作る世界は、「コンピュータが勝手に判断し、人間の判断は必要ない」ということではなく、人間系も含めたフィードバックループが必要になります。