お詫び:3月30日に公開した本記事に、本来3月31日に公開する予定だった「最終回 本来の姿」が掲載されていました。本記事を正しい内容に修正するとともに、改めて最終回の記事を公開しました。本連載をご愛読いただいた読者の皆様に心よりお詫び申し上げます。
前号のあらすじ JUAS産業の社長に就いた浦山は、運用コストの半減を命じる。創業者の息子である福井CIOは、運用子会社を切り出し、ベンダー、中堅スーパー・マーケットを加えた3社の共同出資会社を設立するプロジェクトを進める。ところが、運用共同化の効果は上がらず、新規案件のシステム開発も滞ってきた。 |
JUAS産業の浦山社長は寝室に体を横たえて天井をにらんでいた。大きな課題で浦山の頭がいっぱいになり、寝つけない。スリーアローズの増資の問題ではない。増資は断る予定だ。浦山の悩みは別のところにあった。
中国など新興国の需要拡大のおかげで、JUAS産業はこの1年で思いがけない業績回復を果たしていた。ところが、次の手が打てないのである。経営はスピードが命だ。今、この景気回復に乗じて早めの設備投資を済ませておかねば、すべてが後手に回るのは目に見えている。
ここ数年、JUAS産業の製品は少量多品種の傾向が強くなっている。取引先が市場開拓と競争のために商品の多様化を進めていることが原因だ。もともとJUAS産業は基幹部品を中心に製造している会社で、商品価値の劣化は少ない。しかし取引先からの要望に応えながら売り上げを伸ばしているうちに、少量多品種製品の売り上げが全体の30%を占めるようになってしまった。これらの製品は商品としての寿命が短い。半年で不良在庫となってしまう。
浦山はこの打開策として、在庫をゼロにする、すなわち注文生産方式の採用を考えていた。この構想の実現には新しいシステムによる支援が不可欠だ。福井CIOの率いるシステム企画部に、だいぶ前から計画を作るよう命じてある。しかし、半年近くになるというのにまだ何の音沙汰もない。システムの経験がある浦山にはその難しさが分かっていた。商品マスターや在庫マスターをリアルタイムに更新しなければならない。システムを根本から作り直さなければならないのだ。
「やっぱり、福井君では無理か」
浦山は暗闇の中で自問自答した。運用の共同出資会社をどうするかの前に、自社のシステム戦略が思い通りに描けないことで頭が一杯だった。何度も寝返りを打って、暗闇の中であれこれ打開策を思い浮かべてはつぶしていたら、いつまでも眠れなかった。