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文:瀧口 樹良(札幌総合情報センター 主任研究員)

 行政が住民の所得や納税実績、また年金などの社会保障に関する個人情報を一元的に管理することを目的に、一意の番号を付与する共通番号制度について、導入に関する議論が政府内外で盛んになっている。

 共通番号制度については今後、様々な議論が巻き起こることが予想されるが、果たして住民は、制度の導入や行政による個人情報の活用について、どのように考えているのだろうか。

2015年1月の運用開始を目指す共通番号制度

 すでに、民主党は2009年の衆院選マニフェスト(政権公約)に番号制度の導入方針を盛り込んでおり、政府として「社会保障・税に関わる番号制度」の導入を検討するため、「社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検討会」を開催。「社会保障・税番号大綱(仮称)」を2011年秋以降なるべく早期に法案として提出することを目指している。関連法案が成立した場合、2014年6月にも住民に番号を割り当て、2015年1月から運用を開始することを想定している。

 「社会保障・税番号大綱(仮称)」の基本方針では、個人情報の保護の観点から、従来の住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)を改良して安全性を高めたICカードを国民に配布することや、共通番号を利用できる分野として社会保障では年金・医療・福祉・介護・労働保険、税では国税・地方税とすることとしている。また、共通番号の管理は、民主党のマニフェストに沿って、社会保険庁の後継組織である日本年金機構と国税庁とを統合した「歳入庁」とするが、当面は住基ネットを所管する総務省が個人、国税庁が法人を管理するとしている。

 さらに大綱の作成に向けて、個人情報の管理などの課題を具体的に検討する個人情報保護と情報システムの制度設計を議論する2つのワーキンググループ(WG)も設置した。「社会保障・税番号大綱(仮称)」を取りまとめる2011年6月に向け、具体的なスケジュールに沿って動き始めている。

 一方、政府では、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)が2010年5月に公表した「新たな情報通信技術戦略」における重点施策の一つとして「国民ID制度」の導入も提唱している。専門調査会に相当する「電子行政に関するタスクフォース」では、社会保障・税の共通番号の検討と整合性を図りつつ、国民ID制度の利用目的や利用範囲などに関するサービス要件の整理を行っている。

 こうした動きに呼応するように、日本経済団体連合会は、2010年11月16日に「豊かな国民生活の基盤としての番号制度の早期実現を求める」との意見書を公表。12月5日には、与野党が出席して開かれた「わたしたち生活者のための『共通番号』推進協議会」の発足シンポジウム(主催事務局は日本生産性本部)で、冒頭に挨拶した菅直人首相は、医療、介護、年金について「この共通番号制度がきちんとすれば、よりよいサービスがより公平にできるのではないか」と述べた。

プライバシー侵害への懸念が付きまとう

 すでに多くの諸外国は似た仕組みを持っており、日本でも自民党政権時代から主に納税者番号の導入が検討されてきた。例えば、1980年の税制改正で「グリーンカード」(少額貯蓄等利用者カード)の導入が決まったが、法律成立後に膨大な個人情報を効率的に把握する狙いがあることから、プライバシー侵害を理由に反対運動が激化し、当時の郵政省や、郵政族議員、金融業界などの反発もあって、1983年に法の実施が延期され、最終的には1985年3月に同法は廃止となった。

 さらに、1999年には住民基本台帳法が改正され、住基ネットの設置が決まったが、これを納税者番号に使うことは禁じられるなどの制約が厳格化されている。

 こうした動きに見られるように、共通番号制度は常に“国民総背番号制度”として、住民の一挙手一投足がすべて政府によって把握・監視される社会、まさに、オーウェルの小説『1984年』に描かれた社会が日本に出現することになるといったプライバシー侵害に対する懸念の声が付きまとっている。

 共通番号導入の動きに合わせて、日本弁護士連合会は2010年8月19日に、拙速に「番号制」の創設のみを進めるべきではないとの「「税と社会保障共通の番号」制度創設に関する意見書」を提出した。また、名古屋市は2010年12月6日に、「共通番号及び国民IDカード制度問題検討名古屋市委員会意見書」を提出し、憲法に抵触する可能性の高い監視ツールであることから、共通番号や国民ID制度は導入すべきではないとの反対意見を表明している。

 では、肝心の住民は、共通番号制度の導入や行政による個人情報の活用について、実際のところどのように考えているのだろうか。

 こうした問題意識に基づき、2010年10月29日~31日に、国内に在住するインターネットのユーザー(18歳以上の男女で、公務員を除く)の中から、ネット上で行政手続きを行ったことのある(14.3%)、または行う意思のあるユーザー(85.7%)、計1200人を対象にネットアンケート調査を実施した(表1)。調査対象がインターネットユーザーという偏りがあるものの、「行政のワンストップサービスを最も利用する機会のあるユーザー」が存在すると想定されるため、調査対象をそうした意思のあるユーザーにあえて限定した形で調査を実施した。

表1●「行政サービスにおける個人情報の活用に関する調査」の概要
調査対象1200人
国内に在住するインターネットを利用するユーザー(18歳以上の男女で、公務員を除く)の中から、ネット上で行政手続きを行ったことがある(14.3%)、または行う意思のあるユーザー(85.7%)
調査期間2010年10月29日(金)~31日(日)
配布・回収方法インターネットアンケート調査
ネットアンケート調査会社経由で、対象者にメールで回答を依頼し、Webサイト経由で回答を回収
信頼性の確保所要時間が短い回答や、極端に同じ箇所にチェックしてある回答、また特定の規則性が見られる回答などは、有効回答とはみなさず除外
その他本調査は、平成21年度「電気通信普及財団」研究助成『行政サービス・ワンストップ化に不可欠な行政の共通番号に基づく“世帯単位”の情報の取り扱いに対する市民の合意形成を可能とする個人情報保護対策に関する実証的研究』の成果の一部