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 コクヨと言えば、誰もが知る文具メーカー。創業は1905年で100年以上の歴史を持つ。ITとは縁遠いイメージがあるが、企業から外部に発信される文書の流通情報の記録に特化したSaaS「@Tovas(あっととばす)」を提供している。サービス開始は、SaaSやクラウドという言葉もまだない2004年7月7日。異業種からの参入のため、IT業界での立ち振る舞いも何も分からないところからスタートした。(ITpro編集部)

画面●@Tovas(あっととばす)
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 コクヨは全国にある流通業者を通じて顧客に商品を届けています。代理店、販売店という「流通三段階」のモデルです。これは一見すると大きな飛び道具であり、活用すれば強力な武器となります。「@Tovas(あっととばす)」(画面)を立ち上げた時、「このチャネルを活用すれば、SaaSも売れるに違いない」と当然のように目論んでいました。

 当時のメンバーで話し合い、まずは企画していた事業モデルを簡略化して分かりやすくした「簡単利用モデル」としてリリースすることにしました。A4三つ折りの簡易リーフレットに「PCから直接FAX、大容量データ送信」と書いた手配り用のカタログを大量に印刷。コクヨと取引のある流通業者の営業担当者らに配布したのです。

 結果は散々でした。振り返って冷静に考えれば、彼らが売ってくれるはずがありません。なぜなら、@Tovasの売り上げは毎月数千円~数万円にしかなりません。日常的に数十万~数百万円単位の商材を扱っている法人営業の担当者にとって、この程度の売り上げにしかならないサービスは一生懸命売る商材ではなかったのです。しかも売るのに必要な商品の知識は、文房具やオフィス家具などほかの商材とは全く異なります。それだけ勉強をしなければならないので割に合わないのです。

 売れなかっただけであれば、またやり直せばいいのですが、分かりやすくした結果、@Tovasについて我々が伝えたい価値とは違ったイメージが付いてしまいました。@Tovasの本質は“企業から外部に発信される文書の流通情報の記録に特化したSaaS”なのですが、三つ子の魂百までというべきか、生まれたばかりのヒヨコが最初に見た物を親と思い込むというべきか、「@Tovasは大容量ファイルの送信サービスである」と刷り込んでしまったわけです。これが良くも悪くもこの先の売り方を考えることにつながり、結果として功を奏する結果につながる訳ですが、いまだに多くの身内が「大容量」というキーワードが刷り込まれたままというのも、事実として受け止め反省しています。

 このように事業立ち上げ当初は、勘違いから多くの苦労を強いられました。「一見扱いやすそうに仕立てても、その人に価値がなければ売ってもらえない」「一度ついたレッテルはなかなか剥がれない」など「顕在化している価値を追いかけていてもそこにはオアシスは存在しない」など、楽な道を選ぶと失うものがあることを、身を持って体験することになりました。

誰が売るのか

 開始期の失敗により自分たちで売らないといけない状態になりました。恵まれていたのは、我々はコクヨとしてアプローチできている顧客には、サービスを紹介しに行ける状態ではある訳です。とは言え、特に大企業の顧客については、コクヨの文具やオフィス家具を購入している購買部門と、@Tovasを提案したい情報システム部門は異なります。改めて情報システム部門の方と関係をつくる必要がありました。

 @Tovasは当時、コクヨの新規事業を手がけるRDI(リサーチ・ディベロップメント・インキュベーション)センターの傘下にあり、専属の営業担当者もいませんでした。当時5人のメンバーが兼務で企画、開発、運用、サポート、販促、営業、請求に取り組んでいたために、グループ内や一部取り引きのある顧客への対応で精いっぱいでした。もちろん簡単に増員できる訳もありません。まずは自分たちが営業できる時間を作ることから始めました。

 当時、「分からないことは聞きにいこう」ということで今も付き合いのあるベンチャー企業の社長をはじめ多くの方の知恵を借りに走りまわったのを思い出します。紹介いただいた本を読みあさり、多数のセミナーに参加しました。これは今も続けている活動のベースとなっています。一つの企業にいると分からないことでも、どんどん外に出て聞きにいくと分かるようになるものです。知恵をくれた多くの方の温かさに感謝しています。