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 プロジェクトマネジャー(PM)やリーダーは、最初はどんなに簡単に思えたプロジェクトでも、途中で「困った、どうしよう」と悩む場面に遭遇することが少なくない。そんなとき役に立つのが、他のプロジェクトの事例だろう。

 往々にして同じような苦労を別のプロジェクトで既に経験済みの場合が多い。社外の交流の場などでは、「そうなんですよね」とお互いの同じような境遇について意見を交わし、意気投合するものだ。苦労話を酒のさかなにして盛り上がる光景も珍しくない。

 社内においても、事例報告会などで他のプロジェクトの情報を得る機会は意外にある。たとえ本人にとって初めての技術や局面であっても、それらの情報をうまく収集すれば、切り抜けるヒントを得られるはずである。

自分たちは特殊だから事例を収集せず

 ところが、筆者も以前そうだったが、周りのプロジェクトの情報を収集することを怠りがちだ。もちろん忙しいという事情はある。だが根本的には自分たちが置かれている立場が特殊であり、他のプロジェクトの情報など役に立たないと思っているふしがある。つまり、隣の芝生(他のプロジェクト)は“青い”と思い込み、きれいなプロジェクトからは何も学ぶことがない、という気持ちにどこかでなっているのだ。

 実際には、他のプロジェクトでも同じような苦労が必ずある。失敗知らずのプロジェクトなどまずないといっていい。だからこそ、そこにはプロジェクトを成功させるヒントが隠されている。今回は「隣の芝生は“青くない”」というルールについて紹介しよう。

 この「隣の芝生は“青くない”」の本質は、周りのプロジェクトも決して順風満帆ではなく、自分たちと同じような苦労をしている。だからそこに目を向けてヒントを摘み取れ、というものだ。自分たちの置かれた立場は決して特殊ではない。自ら他のプロジェクトに学ぼうと思う姿勢が薄れると、せっかくのヒントを逃しかねない。筆者もリーダーになり立てのころ、アンテナを張らずに失敗した経験がある。あれは、PMとして2年が過ぎたころだった。

 筆者はプロジェクトの進め方をひと通り覚え、自信がついてきた。そんなある日、ユーザーから新しいサービスを展開するための新システムを提案してほしいと依頼された。

 上司がちょうど出張ということもあり、筆者が提案責任者となった。与えられた期間は1週間程度。そのユーザーとは長い付き合いがあるので、筆者は自分1人でもベストな提案ができると思っていた。他のプロジェクトの情報はたいして役に立たないと決め付けていた。社内や周囲の新しい技術や製品の動向を調べることもなかった。

 提案当日、筆者らプロジェクトメンバーは、現行システムを改修して対応するプランを提示した。だが「目新しさがまるでない」と、ユーザーの反応は悪かった。追い打ちをかけるように「何か御社として提案したいことはないのか。何年も一緒に仕事をしてきて、まだ我々のやりたいことを理解できないのか」と吐き捨てるように言われた。

的外れな提案 実は解決策があった

 出張から帰ってきた上司に状況を報告すると「なぜ社内の別の事例を参考にしなかったんだ」とどなられた。実はその当時、同じような問題を抱えるユーザーが多数存在し、社内ではその問題を解決するための新製品が間もなくリリースされる予定だったのだ。

 再びユーザーのもとを訪れたが、結局その案件は別のベンダーに決まっていた。ユーザーからの信頼はガタ落ち。申し訳ない気持ちでいっぱいになると同時に、なぜ情報収集を怠ったのかと悔しくなった。

 あれから10年近くがたち、筆者は他のプロジェクトの情報収集に努めている。イベントやセミナーにできるだけ参加するようにしている。また、Webサイトや新聞、雑誌などで事例の情報を集めることを心掛けている。

 システム開発の現場では、日々の作業に追われる中で、問題への素早い対応や新しい技術への追随を求められる。何かが起きてから動いていたのでは対応が遅くなるし、筆者のような的外れな結果になってしまう。

 自分の周りには意外に参考になるプロジェクトがあり、そこに自分たちを救うヒントがある。チームを率いるリーダーとして、メンバーを迷走させないようにアンテナを常に高くしておきたい。

大森 久永(おおもり ひさなが)
1998年に日立製作所入社。以来、銀行システムのSEとして従事。2003年から2年間、旧UFJ銀行に出向。2005年に三菱東京UFJ銀行のDay1統合プロジェクトに参加。インターネットバンキングの構築プロジェクトで、PMとして約600人のメンバーを率いた。