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 PM(プロジェクトマネジャー)に求められる最も重要な資質は何だろうか。

「コミュニケーション能力?」「No!」
「マネジメント能力?」「No!」
「文章記述能力?」「No!」

 いずれもPMにとって必要な資質ではあるが、最も必要な資質は「プロジェクトへの情熱」である。

本当はやりたくなかったNさん

 Nさんは入社20年目、これまで数多くのプロジェクトを担当し成功に導いてきたベテランPMである。そんな彼がある流通業界企業A社の人事システム再構築を担当した時の出来事だ。実はその時、Nさんの会社(システムインテグレーター)はほぼ同時に二つのシステム開発プロジェクトを受注していた。前述したA社の案件と、別の流通業界企業B社の在庫管理システムの再構築だった。この両方の案件を比較すると、B社の案件の方が規模も大きく難易度も明らかに高かった。

 その当時、Nさんの会社で手の空いているPMは二人いた。一人はNさんで、もう一人は入社7年目でそろそろ中堅になろうかというHさんだった。案件の規模や性質、PMとしての実績などを鑑みて、当然自分がB社の案件を担当するものだとNさんは思っていた。

 しかし、実際は違った。会社としては、Hさんの将来性や今後のキャリアパスを考えた結果、彼にB社の案件を担当させる決断を下したのだった。Nさんとしては面白くなかったが、会社が下した判断である。渋々ながらもPMとして参画することになった。

 Nさんとしては、人事システムは過去にも幾つか経験があり、かつ今回規模も小さいことから、どうしてもプロジェクトに対する情熱が沸かなかった。

 「さぁ!やるぞ!」と一旦は気を引き締めてはみたものの、どうしても燃えてこない。どう前向きに考えようとしても駄目である。それどころか、Hさんが要所要所でうまくやっている話が漏れ聞こえてくると、ますます「情熱」という言葉はNさんから遠のいていったのである。

 そうこうしている中、Nさんが策定したある仕様に対して、顧客担当者から反対意見が聞こえてきた。それも面と向かってではなく、その担当者が懇意にしているプロジェクトメンバーを通じてのことだった。その仕様は、レビュー時点では全員賛成として合意済みの仕様だったが、設計フェーズに入った途端に異論がささやかれるようになったのである。

 このような声がプロジェクト内部で聞こえるようでは、全体の士気に影響する。そう考えたNさんは、実際に反対意見をささやいている顧客担当者と直接話をすることにした。すると、顧客担当者からは「全体的には良いけど…」という答えが返ってきた。要するに、仕様の中枢部分というよりは、仕様の枝葉の部分に関して不満を幾つか持っているということだった。

 枝葉の仕様とはいえ、それら全てを言う通りに変更するわけにはいかない。時間的・リソース的状況から考えても不可能である。そこでNさんは、譲歩できるところは譲歩し、そうでない部分については説得を試みることにした。これまでの経験から担当者の不満をできる限り取り除きつつも、変更を最小限に抑える方法を模索したのだ。

 しかし、説得は難航する。顧客担当者は「いえ、反対はしていないですよ、反対は。でもね…」といった具合でなかなか「うん」とは言わない。Nさんとしては、「こちらは譲歩しているのに」という思いがある。そのため知らず知らずのうちにNさんの中にフラストレーションがたまって行く。こんな状態が何日か続いた結果、Nさんは、この協議自体にだんだんと嫌気がさしてしまったのだった。

 こうなってしまうと交渉は悪循環に入る。相手はますますかたくなになる。そしてとうとう「確かに合意はしたけども、そもそも、元の仕様に問題があるのではないのか?」と言い出すまで発展してしまったのである。

 プロジェクトマネジメントについては完璧なはずだった。どこで間違ったのか。コミュニケーションの問題だろうか。Nさんは最後までその根本原因が分からなかった。