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ビジネスブレイン太田昭和
会計システム研究所 所長
中澤 進

 前回(大震災が顕わにした情報の非対称性(上))は大震災にかかわる一連の出来事における情報発信および入手の難しさと、「情報の非対称性」に起因する情報格差の大きさについて触れた。情報強者と情報弱者との間に生じる情報の非対称性を最小化しないと、市場が破綻してしまう可能性があることを、中古車市場や保険市場を例に挙げて説明した。

 今回は前回の続きである。資本主義の基盤となる証券市場における情報の非対称性を見ていくとともに、この状態に寄与する道具としてのIFRS(国際会計基準)の役割を考えてみたい。

投資家の不信感・不安感を最小化する必要がある

 情報の非対称性については、証券市場でも中古車市場や保険市場と同じことが言える。この場合、情報強者は情報の出し手としての経営者であり、情報弱者は情報の受け手としての投資家となる。さらに投資家の中にも情報弱者と情報強者が存在する。前者が一般市民投資家、後者がプロの投資家となるだろう。

 証券市場は、株式会社ひいては経営者と投資家との出会いの場を提供する。株式会社は経営者にとって、組織運営のための資金を調達するには極めて有用な仕組みである。投資家にとっては、株式は魅力のある金融商品となる。経営者、投資家、それらを制御する証券市場というスキームが、資本主義経済の基盤を担っていることは否めない事実である。

 株式会社の歴史は、経営者と投資家、証券市場という三者間の駆け引き、場合によっては闘いの軌跡と見ることもできる。できる限り有利に資金を調達したいと考える経営者、手持ちの資金を有効に運用したいと考える投資家、その利害を効率的に結びつける役割を果たす証券市場という構図だ。

 その中で経営者が資金調達を有利に進めるために、自社の業績や将来性をより良く見せようとするのは、当然の行為であろう。経営者側が資金を調達した後に、場合によっては会社の業績が急激に低下したり、倒産したりすることもあり得る。これが「図らずも発生する」レベルであれば大きな問題はない。

 だが、そうした事態があまりにも多く発生したり、資金調達時の業績開示が虚偽のものであることが判明した場合、投資家はどう受け取るだろうか。株式会社や、その売買の場としての証券市場に対する不安感や不信感が高まり、場合によっては他の資金運用手段を選択するかもしれない。そうなると、証券市場が成立しなくなってしまうことが考えられる。

 こうした事態が生じるのは、情報弱者である投資家が投資先である会社に関する正確な情報を取得できない、すなわち投資家と経営者との間に情報の非対称性が存在するからである。情報強者である経営者側が情報を発信する際に、投資家にとっての透明性と正確性を担保することで、このような事態を回避できる。

 すなわち経営者は投資家との情報の非対称性を最小化するために、最大限の努力を払わなければならない。その姿勢が投資家に見えてくれば、投資家の不安感や不信感を最小化でき、証券市場で株式による資金運用を積極的に進めようとする意欲も湧いてくるであろう。