V-High帯を利用する全国向け「携帯端末向けマルチメディア放送」(以降ISDB-Tマルチメディア放送)では、現在のワンセグよりも高画質なリアルタイムのストリーミング放送や5.1chサラウンド放送などの高品質な「リアルタイム型放送サービス」とIPパケットを使った映画や音楽、ニュース、電子書籍といったコンテンツのダウンロード、メタデータを使ったVOD(ビデオ・オンデマンド)サービスなど多種多様なコンテンツを受信機に蓄積可能な「蓄積型放送サービス」の二つの放送サービスが提供される。今回は、ISDB-Tマルチメディアフォーラムが策定した運用規定案の内容を基に、マルチメディア放送のアクセス制御方式とコンテンツ保護について概要を述べる。
マルチメディア放送のアクセス制御方式の基本機能
現在のデジタル放送のアクセス制御方式は、CAS(Conditional Access System)と呼ばれる限定受信方式を採用している。受信機は、放送波を受信すると直ちにスクランブルをB-CASを使い解除して映像をテレビに表示する。録画については、ダビング10やコピーワンスなどを指示するコピー制御信号を放送波に多重し、受信機はその制御信号に基づいて動作する。ワンセグは放送にスクランブルがかかっていないが、録画はコピー制御信号を用いて制御している。
ISDB-Tmmマルチメディア放送でも同様にCASを利用するが、リアルタイム型放送と蓄積型放送と2種類のサービスを提供するため、それぞれ異なるアクセス制御を用意する。
リアルタイム型放送サービスは、現在の有料放送と同様の視聴形態をとるため限定受信方式を利用する。受信機は、放送波を受信すると、受信機内に格納された加入者毎の契約情報に基づき、契約を行っている場合はスクランブルを解除する。
また、蓄積型放送サービスでは、放送時に施された暗号がかかったままでいったんコンテンツを蓄積する。視聴の都度コンテンツに付加されたライセンスを通信を使い取得し、サービス提供事業者が指定する視聴条件に則って、暗号の解除を行う限定再生方式によるコンテンツの利用制御を行う。
コンテンツの暗号化方式
表1に、ISDB-Tmmマルチメディア放送のアクセス制御の方式を示す。リアルタイム型放送サービスにかけるコンテンツ暗号をスクランブル、蓄積型放送サービスにかけるコンテンツ暗号をエンクリプトと区別している。
リアルタイム型放送サービスのスクランブル方式は、現在のデジタル放送で利用されているMULT2暗号ではなく、鍵長128ビットのAES(Advanced Encryption Standard)による暗号方式を用いる。コンテンツを復号する際に必要となるライセンス情報は、ECM(Entitlement Control Message:番組に関する情報とデスクランブルのための鍵などと制御情報からなる共通情報)とEMM(Entitlement Management Message:加入者毎の契約情報および共通情報の暗号を解くためのワーク鍵を含む個別情報)を利用する。スクランブル鍵(Ks)は、ワーク鍵(Kw)で暗号化してECMで伝送(放送)する。また、ECMを暗号化するためのワーク鍵(kw)は、EMMにより取得する。
蓄積型放送サービスでは、コンテンツを構成する各リソース単位でエンクリプト処理を行う。この時のエンクリプトアルゴリズムは鍵長128ビットのAESを用いる。暗号モードはCBCモード(Cipher Block Chaining、暗号文ブロック連鎖モード)を用い、端数が発生した場合は、OFBモード(Output Feadback、出力フィードバックモード)を用いる。受信機は、蓄積したコンテンツを復号する際に必要となるライセンス情報を、通信回線経由でCASサーバーから取得する。