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 東日本大震災と福島第一原発事故は複数の都道県にまたがる未曾有の広域災害だ。我々は今、これを教訓として「広域」をキーワードに行政の仕組みや災害対策を練り直す必要に迫られている。もし「東北州」の単位で仕組みができていれば今回の災害でも違った対処があったかもしれない。そこで今回は、「広域」の切り口で見た場合のICTの貢献を提言したい。

根こそぎ崩壊した自治体システム

教訓1 広域災害では自治体は根こそぎ壊滅する危険がある。
教訓2 役場に情報システムを置けば役場とともに災害にあうリスクがある。

 東日本大震災で発生した津波は、実に巨大なもので東日本太平洋側の広大な地域を根こそぎ壊滅させた。岩手県田老町に設けられた10メートルの防波堤を超える津波の様をニュースで見て人間の無力さに身が震えた国民も多かったことだろう。

 さらに福島第一原発の事故は、自治体丸ごとの避難という未曾有の事態を招き、福島県双葉町役場はその機能を埼玉県加須市に移している。他にも役場自体が被災してその機能を他所へ移した自治体がいくつもある。これまでの日本では災害対策は都道府県とそれに属する市町村という自治体を単位として練られてきたが、今回の災害は、明らかに自治体の枠組を超えた広域災害であり、我々はこれほどの災害を想定した対策を練っていなかったのである。

 岩手県大槌町では大地震直後に役場で対策会議を開いている最中に巨大津波に襲われ、町長をはじめとして多くの職員が亡くなっている。つまり、小規模自治体は役場が安全で災害にあわないという前提を立てていたが故に、今回の災害をまともに食らってしまったわけだ。

 このように役場自体が津波にさらわれると、人命ととともにそこで使われていた情報システムも当然破壊されてしまう。特に住民基本台帳や納税記録など住民の重要な情報が失われると、行政業務の多くが執行不能に陥る。

 人口数千~数万の小規模な自治体では、ほとんどPCサーバーで行政システムが稼働しており、その多くは物理的に役場の中にあるので被害は免れない。一度コンピュータが丸ごと海水に浸かってしまうとデータ復旧は難しい。ニュースでは被災した役場からコンピュータを探し出し、専門業者に復旧を依頼するケースも見られたが、現実はかなり厳しい。

 阪神淡路大震災以降、民間では事業継続計画(BCP)が盛んに作られ、意識の高い自治体でもBCPを持つようになった。だが、民間企業と違って地元に縛られる自治体では、根こそぎ壊滅するような災害は想定さえできなかったので今回のような事態に陥ったのである。

 もし真摯に想定していたならば、少なくとも行政情報システムは安全な場所にあるデータセンターに設置してネット経由で利用する形態にしていたであろう。これほどの大災害でも東北地方のデータセンターが大丈夫だった事実を考えれば、少なくとも役場が物理的に失われても住民の基本的な情報と業務システムはデータセンター内で生き残り、ネット経由で他所に移動した役場において利用可能となっていたであろう。その方がコスト的にも節電の面からもお得なのだが、大事なものは側に置いておきたいという、今思えばたいしたことのない理由でそうなってはいないのが現実だった。住民情報の他所での保管には条例改正の必要があるが、既に先進的な自治体では対処している。

 その観点からは、総務省が進めている自治体クラウド構想は災害対策という新たな利点に目覚めさせてくれた。今後、これをさらに推進していく必要が増すのは間違いない。ただし、これまでのような共同利用センターの延長形式ではなく、より広域を対象としたクラウドシステム化が望まれるのは論を待たない。

 この状況は中央政府にとっても大きな教訓だ。何しろ政府情報システムの大半は霞ヶ関から半径数キロメートル以内に物理的に存在していると想定されており、関東大震災クラスの巨大災害で山手線の内側が壊滅的被害を受けると国家業務の多くがストップしてしまうリスクがあるのだ。超党派の議員連盟が大阪伊丹空港跡地に副首都をつくる構想を持っているが、まさに現実味を帯びてきたと言えよう。政府の情報システム全体も分散化されたデータセンターに設置してクラウド形態とし、ネット経由で利用するようにしておけば、副首都でもどこでも国家の情報システムは利用できる。