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 IT業界で“超上流工程”と呼ばれている、システム化を構想・企画フェーズの作業について、情報システム部門やベンダーの人たちと話していると、認識が一致することはほとんどない。ある人は、事業部門のニーズや要望を、そのまま引き受けて、システムの機能になるべく取り込むことだと考える。ある人は、複数のベンダーから提案をもらって、その中から選択することだと考える。システム開発の予算取りのために、既存のシステムを良く知っている運用担当者が、短期間に企画をまとめることだと考える人もいる。

 そもそも構想・企画フェーズで何を決めて、何を実行するのかについて、一般的な合意があるわけではない。企業や組織の経営方針、規模、情報システム部門の位置づけなどによっても変化するものである。このように全てが曖昧な状態で、担当する個人の考え方や経験に依存してしまっているのが現状である。このような現状で、良い企画書を作ることは大変難しい。

 IT業界に従事している人々の間で、認識を合わせていくための取っ掛かりとして、BABOKが役に立つ。BABOKはBA(ビジネスアナリシス)の知識体系、要するにべストプラクティスである。BAに従事する多くの人たちが経験的に成功した行動や正しいと思っている概念を整理したものである。BABOKに定義されている重要な概念をIT業界で普及させて、認識を一致させていくことが、構想・企画フェーズの能力を業界全体で高めていく一歩になる。

 BABOKの中で最も重要な概念は、要求(Requirment)である。事業部門の担当者をはじめ、様々な関係者から、各々の立場でニーズ、要望、問題、改善点などが寄せられる。それをそのまま受け入れても次にはつながらない。そこで、要求という形で整理することが有効な手段となるのだ。

 BABOKでは、要求は「目標達成や問題解決するために必要となる能力(Capability)や条件(Condition)である」と定義されている。「要求がなぜ能力や条件なの?」と思われるかもしれない。問題・課題を抱えている現状(AsIs)から将来のあるべき姿(ToBe)へ移行することは簡単ではなく、大きなギャップを乗り越えなければならない。そのときに必要な能力や条件を要求と定義するのである。

 そして、BABOKでは要求を以下の4項目に分類している。

(1)ビジネス要求
(2)ステークホルダー要求
(3)ソリューション要求(さらに機能要求、非機能要求にも細分化)
(4)移行要求

 このBABOKの定義を利用して、要求を整理することが要求の体系化である。ビジネス要求をブレークダウンするとステークホルダー要求となり、それを詳細化するとソリューション要求、移行要求となる。このように、経営者やビジネスの現場からのニーズ、要望を引き出して、要求として整理、構造化することが、BAにおける最も重要な成果である。

 この要求に対応して、現状からあるべき姿に変えるものをソリューションと呼ぶ。ソリューションは、ITを利用した対策のみならず、組織の改変、業務プロセスの変更、生産や物流設備の増強、要員の教育など、様々な施策を含む。情報システムの構築、改善はソリューションの一部でしかない。

 このように要求から順次ソリューションを考えることで、要求に合わない情報システムを企画することがなくなる。要求を実現するためには、何をするべきか、何の優先順位を上げるべきかを本気で考えるようになる。

能登原 伸二(のとはら しんじ)
アイ・ティ・イノベーション 取締役 兼 専務執行役員
能登原 伸二(のとはら しんじ)
株式会社ジャパンエナジー(現 JX日鉱日石エネルギー株式会社)の情報システム部門において、長年、情報システムの企画、開発、運用までの幅広い業務に携わり、ITによる業務改革、収益向上を支援してきた。現在は、プロジェクト管理標準導入、PMOの運営、及びITプロジェクトにおけるプロジェクト管理支援コンサルティングを幅広く手がける。日経SYSTEMSにおいて「のとはら先生」シリーズを連載し、大好評につき「プロジェクトマネジメント現場マニュアル」を出版。PMP。名古屋工業大学 非常勤講師。