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 死者と行方不明者を合わせると3万人近い犠牲者や数十万人の避難者を出した今回の災害は戦後最大のものだ。国民の生命は何よりも大事であり、今後ありとあらゆる手段を駆使して国民の命と財産を守り、さらに将来の希望を与えるのが国家の使命である。そこで今回の連載では、主に国レベルで対処すべきことで、ICTが貢献できるものを提言してきた。

 しかし、現実には国家も地方自治体も膨大な借金を抱えており財政破綻寸前の状況なので投資できる資金は当然限られてくる。復興債などの発行で当面の資金は調達できるのだろうが、日本に生まれたその時から親たちの世代が残した借金を返済する運命を背負わされる日本の子供たちが哀れで仕方がないのは私だけではなかろう。財政再建について語るのはこの連載の主旨ではないので、ここでは今回の提言について費用対効果の面からどのように進めるべきかを考察したい。

費用対効果を意識した進め方

 ここまで、今回の大災害を教訓にICTが貢献できる分野の提言を行ってきた。これらを社会インフラ、電子行政、災害対策、医療基盤の4領域でまとめ、規模感の大きそうなものから順に並べ直して、費用対効果と進め方を考えたい。

<社会インフラ>

  1. 広域災害に対応した「地域の箱舟」的未来都市群を国家レベルで構築
  2. 電源の多様化とスマートグリッド網を積極的に推進
  3. 今こそ、国内グリッド通信網の強化を
  4. 社会インフラとしての携帯電話網の強化を
  5. 広域の水道管理システムを

 未来都市群の建設は、地域活性化、産業再配置、行政機能再配置、広域災害対策などの面で非常に有効と思われる。しかし、それには兆単位の資金が必要となる。とても全国一斉に進めることは不可能だ。まずは東北地方で実証事業的に始めるのがよいだろう。

 一方効果のほうは、雇用や産業活性化の結果、税金として返ってくるまで時間がかかるし、投入資金をすべて税金として回収するのは難しい。したがって、有料橋、鉄道、病院、学校などの公共施設の整備・運営に民間の資金、経営能力および技術的能力を活用するPFI(Private Finance Initiative)が近道と思われる。そのためにはそれらを受託する民間企業にとっても魅力的なものでなければならない。そのような現実的で魅力的な計画を立てられるかがポイントとなろう。

 多用な電源開発は従来からコストの高さが問題となってきた。ここは世界トップレベルと言われる日本の技術力を駆使して最高レベルの効率的な発電の仕組みを編み出すべきだろう。当初はコストが高くても規模拡大でスケールメリットが出ることも考えられる。この分野では発電ベンチャー企業の登場も望まれる。現在は高コストの電力も電力会社が買い取り、結果として電力料金として国民が払う形となっている。

 そしてそれらの電源を管理するスマートグリッドだが、これは既にいくつかの実証事業が始まっている。現時点では米国の方が技術的に先行しているのだろうが、元来世界最高レベルの送電網を築いてきた日本であるから、電力会社と関連企業群が本気でかかればかなり追いつけるのではないかと期待したい。投資としては大きいが、本来二酸化炭素とコストの削減を目的として構築するものなので、国が大規模な補助を出しても、税金として戻ってくる分をある程度は期待できる。

 国内グリッド通信網と携帯電話網の強化は、通信会社が自己資金で賄うべきものだが、災害対策や産業振興といった国家レベルの政策目的を持つのなら、ある程度の補助をすべきだろう。結果として通信会社の売り上げが伸び、税収として返って来るのを待つことになる。

 広域水道管理システムは、これまでよりコスト削減ができる可能性が非常に高いものなので、水道事業体の初期コストをどうするかが問題となる。これは国民が払う水道料金の中から支払われる形となる。

<電子行政>

  1. 今こそ、電子行政の広域クラウド化を
  2. 電子行政は分散データセンターでクラウド化を

電子行政システムをクラウド化すればコストが下がるのは間違いない。広域でやれば、さらにコスト削減効果は大きくなる。文書作成などのオフィスソフトもクラウド化すればさらにコストは下がる。

 問題は初期コストだ。ここは、初期コストや運用コストを加味した資金回収計画を立てる必要がある。分散データセンターは民間事業者に任せることもできるが、対象システムが巨大ならば自前で構築することも検討対象となる。膨大なサーバー群に払っているリース料、オフィス料、人件費などを考慮し、費用対効果を考えるべきだが、スケールメリットが出るのでなるべく広域を対象にするのがよいだろう。

<災害対策>

  1. 広域の統合防災情報システムを
  2. 広域災害支援のシステム化を
  3. 携帯GPSの緊急救助システムの構築を
  4. 民間ネット網を活用してより分かりやすい情報提供を

 災害対策には投資資金回収はない。国民の命を守るためにどれだけの投資をするかという判断だ。ただし、これまで自治体単位でバラバラだった統合防災情報システムを広域で統合すれば当然コストは浮く。広域災害支援システムはボランティア団体と協力したり外資系の既に存在するシステムを借りたりすれば、コストは下げられる。

 携帯GPSを活用した緊急救助システムの携帯電話部分は携帯電話会社に任せればよい。彼らとしては携帯電話の販売増につながるので無償で頼めるだろうからその分のコストは下げられるかもしれない。民間ネット網の活用は、情報提供だけなのでコストはそれほどかからない。

<医療基盤>

  1. EHR基幹データベースで広域医療基盤システム構築を
  2. 共通番号を物理的な個人認証とEHR基幹データベースと連動させる
  3. 災害時の緊急対策としてレセプトから「仮設カルテ」の構築を
  4. 救急車と搬送先病院にモバイルテレメディシンの導入を
  5. 基幹データベースを活用した「医療持続システム」の構築を
  6. 基幹データベースを活用した「災害時緊急医療システム」の構築を
  7. 避難所にも対応できる「災害時派遣支援システム」の構築を
  8. 避難所にも対応できる「災害時薬剤等支援システム」の構築を

 医療基盤に関して投資回収をするのであれば、医療機関に対して小額の利用料を課すことになる。中期的な回収が見込めるなら、構築と運用をPFI化して民間企業に任せる手段もある。共通番号関連を除くと必要な技術はすべて揃っているので構築のソフト開発には、合わせて100億円程度で済むはずだ。機器や端末のコストもあるが、既存端末を利用するなどでコストは下げられる。

 国民の命や健康を守るためのコストとしては他の社会インフラと比較してかなり安いものではあるが、これまで延々と議論してきてもフォーマットの標準化が困難だったように、費用対効果よりはベンダーや医師会の説得といった壁が高いだろう。