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 プロジェクトを運営する上でPM(プロジェクトマネジャー)は多くの質問を受ける。「そろそろお昼ごはんにしませんか?」といった日常的な会話から、プロジェクトの命運を左右するような決断を迫られる質問まで、実にさまざまだ。PMはいかなる質問にも返答しなければならないが、その際、曖昧な返事をしてしまうとプロジェクトに大きな影響を与えることも少なくない。

曖昧な指示で低い評価となったSさん

 Sさんは社会人歴25年のベテラン社員である。入社以来幾つかの業務部門にてシステム企画を経験した後、数年前に情報システム部門へ異動してきた。これまで企画から関わってきたシステムは両手では足りないほどあり、情報システム部の中でも一目置かれる存在だった。また彼は温厚な性格であり、争いごとを好まず、面倒見の良い人物だった。

 そんなSさんが異動後2年目にPMを任されたときの出来事である。そのプロジェクトは中規模ながら、ステークホルダーの利害関係が絡み合うことが予測された。だが、Sさんの経歴と性格から、誰もがうまく行くと期待していた。

 プロジェクトは皆の予想通り順調にスタートした。ステークホルダーとの関係も良好で、プロジェクトメンバーも安心してSさんに付いて行った。そんなある日のことである。サブリーダーのT君がSさんに相談事を持ちかけてきた。

T君:「XX機能について、A部署が希望する案1とB部署が希望する案2に意見が分かれてしまっていて、なかなか決まりません。そこで両方の意見を比較してみると、コスト的には案1の方が優れています。また案1であれば、機能的に案2を完全に網羅することはありませんが、多少工夫することで案2の持つ機能を幾つか組み込めそうです。そこで私はA部署の案1に沿って設計を進めたいと思いますが、それでよろしいでしょうか?」

Sさん:「いいんじゃないかな。T君が一所懸命検討した結果でしょ。やってみたらどう。まぁ、少し不安はあるけどね」

 T君はSさんの返答を聞いて、案1で進めていいのかダメのかよく分からなかった。そこで、再度聞き返してみたが、答えは同じであった。そこでT君はSさんの言う「少しの不安」が何であるかについて聞いてみた。するとSさんから「良いと思うのだが、何かこうモヤモヤするんだよね」との答えが返って来た。

 PMにそう言われてしまうと、T君は急に自分の意見に自信がなくなってしまった。T君は再度検討することにしたのだった。

 1週間後、T君は再検討した結果を携えてSさんに報告に行った。検討結果は前回同様の案1だったが、Sさんの言う「モヤモヤ感」については特に有効な解決策を見いだせていなかった。

Sさん:「君が良いと思うならやってみたらどうだろう」

 こういう言われ方をして、ますますT君は自分の案に自信をなくしてしまった。「もしかしたらSさんは、自分を育成する観点からあえてこういう言い方をしているのではないだろうか?」とも考えるようになってしまったのである。

 そうこうしているうちに1週間が過ぎ、2週間が過ぎと時間ばかりが経過してしまった。T君は失った自信を取り戻せず、まだ決めかねていた。進捗会議ではT君の遅延が無視できない状況になってきた。業を煮やしたSさんはT君に対して少々強めの口調で注意した。

Sさん:「いつまで検討しているのかな?いい加減着手したらどうなんだ。検討しても結果が出ないなら、とりあえず自分がやりたい案をやってみたらいいだろう」

 T君は案1で進めることにしたが、結局Sさんが自分の案を支持してくれているのかどうか分からないまま取り組むことになったのである。

 Sさんはこのプロジェクトの中で起こる相談事に対して、万事「~である」「~せよ」といった断定的な言い方をしていなかった。Sさんに言わせれば、PMという立場で断定的な物言いをすると、SEの意見を否定することになると恐れたためである。

 Sさんの「言い方」は若手メンバーを中心に不評だった。「失敗したときに自分の身を守るためにああいう言い方になっているのでは?」という疑念がプロジェクトに蔓延していたのだった。

 プロジェクトも後半になると、もう誰もSさんに相談せず、サブリーダーで中堅のMさんに相談するようになっていた。Mさんは中途採用ながらも、メンバーから慕われる存在だった。Mさんは即断即決を常としており、仮に即決できない問題があった場合には、決断する前にやるべき事柄について担当者に指示を出していたのだ。

 結果的にプロジェクトは成功した。しかし、このプロジェクトを成功に導いた人間として最初に名前が挙がったのはMさんであり、SさんはPMでありながらも低い評価となってしまったのである。