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エリヤフ・ゴールドラット博士
エリヤフ・ゴールドラット博士

 TOC(制約条件の理論)の提唱者、エリヤフ・ゴールドラット博士が、6月11日にイスラエルの自宅で亡くなった。10年前に発刊された『ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か』(ダイヤモンド社)がきっかけでファンになった人は多いだろう。

 ITproのコラムCIO登場では、これまで4人のCIO(最高情報責任者)が「お薦めの本」として同氏の著作を挙げていた。全体最適の実現に悩むCIOにも多くのヒントを与えてきたことが分かる。

 そこで、同氏の死を悼みつつ功績を振り返りたい。

導入事例

 同氏の理論の応用として最初に知られた手法は、DBR(ドラム・バッファ・ロープ)と呼ばれる生産管理手法だろう。「生産工程の中で、制約が大きい(ボトルネックになっている)工程を特定し、その工程の稼働率が最大になるように生産計画を組み、かつ、その工程直前に部材の在庫置き場(バッファ)を作り、上流工程はバッファの減り方を見ながら操業する」というものだ。この手法でグンゼ子会社、住野工業、ASEジャパン、日本特殊陶業などが成果を上げた。

日本特殊陶業が納期を最大83%短縮、在庫半減

ASEジャパン、テスト工程を重点管理、TOC導入で生産量が3割増

住野工業、量産にTOC適用し営業利益を4倍に

グンゼ子会社、工場にTOC導入し生産日数を8割削減(上)

グンゼ子会社、工場にTOC導入し生産日数を8割削減(下)

 ボトルネックのプロセスを重点管理することで全体最適を実現するという考え方は生産工程以外にも広がっている。調達改革に北海道電力やキヤノン子会社が応用しているほか、営業プロセス改革に北越製紙子会社が応用した。

長浜キヤノン、「ザ・ゴール」流で調達改革

北海道電力、TOC活用して資材調達コストを8億円削減(前編)

北海道電力、TOC活用して資材調達コストを8億円削減(後編)

北越製紙子会社が営業部門にTOC、1人当たり売上高が10%以上増加

 このほか、DBRの手法を応用することで受注から納品までのリードタイムを劇的に短くして営業力の強化にもつなげたのが丸五技研だ。こうした全社改革をゴールドラット博士は「バイアブル・ビジョン」と名付けた。

丸五技研、量産プリント配線板を最短4日後に納入

 近年は、プロジェクト管理手法も提案していた。「締め切りが近づかないと着手する意欲が湧きにくい」「個々のプロジェクトチームは余裕をなるべく多くした日程を責任者に申告したがる」といった課題を解決する「CCPM(クリティカル・チェーン・プロジェクト・マネジメント)」という手法だ。

 建設・土木業界では工事管理に適用されている。その他の業界では設計部門への応用が多く、オリンパスのデジタルカメラ事業部門や日本特殊陶業が導入している。

デジカメの設計部門にCCPMを採用、複数の新製品開発を計画通りに遂行

 こうした各種手法を生み出す元になってきたのが、ゴールドラット博士の「望ましくない結果を生む組織では、個々の現場で『善かれ』と考えるオペレーションが対立している。そうした対立(コンフリクト)を解消すれば、多くの問題が一気に解決する」という考え方だった。

 典型的な例としてよく挙げられるのが、「生産工程別の稼働率を高める方針」と、「ライン全体で在庫を減らす方針」が対立した結果、仕掛かり在庫が減らない、というものだ。こうした障害をゴールドラット博士は「方針制約」と呼び、それを図解する手法として「思考プロセス」という論理的思考術を提唱した。

 日立ツールではTOCを導入するに当たり、思考プロセスを現場に習得させることで、業務改革の必要性をキーパーソンに共有させている。

TOC流思考術で改革を進める日立ツール

博士の談話

 ゴールドラット博士は、ここ5年ほど、しばしば来日して方針制約を解消することの重要性や、営業部門やプロジェクト管理へのTOCの応用を働きかけてきた。また、トヨタ生産方式の基礎を築いた大野耐一氏への尊敬の念を積極的に表明し、来日時にしばしばトヨタグループの幹部とも面会していたといわれている。

[前編]コスト削減一辺倒は危険 ITを正しく使えば収益力を高められる

[後編]日本の最大の強みは「和」 基本を再確認し不況から脱出せよ

「日本は行政改革のモデルに」、ゴールドラット博士が力説

「トヨタのオペレーションは尊敬、マネジメントはベストといえない」

「終身雇用をやめたら日本の復活はない」,“ザ・ゴール”の筆者が指摘

連載

 ITproではちょうど2011年5月末から米AGI(ゴールドラットインスティテュート)日本法人による「組織連携を最適化する復興ロードマップ設計術」という連載を開始したばかりだった。

組織連携を最適化する復興ロードマップ設計術――「統合計画」とは

 また、日本TOC推進協議会でも調達改革やプロジェクト管理など多くの事例が発表され続けている。今後もこれらの団体を通じて、TOCは応用され、発展していくだろう。

用語解説

TOC

スループット会計

思考プロセス

バイアブル・ビジョン

CCPM(クリティカル・チェーン・プロジェクト・マネジメント)