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◆今回の注目NEWS◆

共通番号、災害時も活用 政府・与党要綱、利用範囲示す(asahi.com、4月29日)

【ニュースの概要】 「社会保障・税の番号制度」(共通番号)を進めている政府・与党の実務検討会は4月28日、制度の要綱を決めた。税や年金、健康保険、失業手当など具体的な利用範囲を示し、災害時の活用をめざすことを盛り込んだ。


◆このNEWSのツボ◆

 国民ID・共通番号について、要綱が公表され、法案となる大綱が6月にも策定されるようである。筆者自身は、国民IDの推進派であるが、他方、メディアなどで発表される内容を見ると、一抹の不安を覚える。

 まず、誤解してはいけないのは、現実には、ほとんどすべての国民は、何らかの「ID」を持っているという事実である。一番広い範囲をカバーしているのは住基番号(住民基本台帳コード)だろうが、それ以外にも、悪名高い年金システムも、間違いなく年金番号というIDを持っている。国税庁の納税システムは納税者になんらかのIDを付与しているだろうし、戸籍も電子化されているのだから、何らかのIDは付されているだろう。外国人居住者についても外国人登録に関してもIDは付されているはずである。

 つまり問題は、「国民にIDという番号をつけること」にあるのではない。むしろ、こうしたさまざまな国のシステムがそれぞれに構築され、相互チェックも行われず、バラバラに機能してきたために、たとえば
 ・年金データで5000万件もの“幻のデータ”が存在する
 ・戸籍上は坂本竜馬よりも年上の人が生きて、年金を受領していた
 ・今回の東日本大震災で一時的にせよ、かなりの住民記録・戸籍データが失われた
といった問題が発生してきたところが問題なのである。

 そういう意味では、「国民に番号をつける」という側面だけがクローズアップされることに、筆者は危惧を禁じ得ない。こうした捉え方が、過去、「いもづる式に個人情報が流出するのではないか?」、「国が国民の情報を管理したいのではないか?」といった議論を必要以上にクローズアップさせてきた。その結果、使えない住基システムが出来上がり、亡くなったはずの人に年金が支払われ、行き先不明の年金データの突合のために500億円以上の国費が費やされているのである。

 正直に言って、国が「本当に」国民の情報を管理したいなら、今でもできるはずである。すべてのシステムを横に連携するようなID連携をこっそり行えば、特定個人についての年金、税、住所、所得、医療などについての情報を引っ張り出すことは可能だろう。しかし、それを行うような意思も仕組みも、現在は存在しない。

 現在発生している行政上の無駄や悲喜劇を解決していくために、現存する様々な電子行政システムを有効に活用するような統一システム(統一IDでもよいが)は、早く構築されるべきである。そして、情報の不正利用や不適切な取得が、国あるいはその他の者によって行われるのを防止するには、むしろ法制上の罰則などで厳正に対応するほうが、よほど効率的であるし、適切であると考えられる、「入り口を狭く(使いにくく)して、中に入ったらやりたい放題」というのではなく、「入り口は適切な広さだが、中で不適切な行為をしたものは罰せられて外に放り出される」という考え方が必要ではないだろうか。

 なお、本稿で引用した記事にも「別々に把握している所得や納税、社会保障サービスなどの状況を一つの番号で管理し、インターネット上の専用サイトで一覧したり電子申請したりできるようにする仕組み」という表現がある。こうした捉え方自体が問題を内包している。

 「一つの番号で管理し」「専用サイトで一覧したり電子申請したりする」ことが、国民IDが必要な理由ではないはずだ。「それぞれのシステムが持っている国民に関する情報が整合化され、政策連携が実現でき(たとえば、消費税引き上げ分を低所得者層に対しては年金や生活保護支給金で還付するといったことも可能になる)、また、万が一の災害などのリスクの際にも、国民情報が適切に保管されるようにする」ことが本来の目的ではないだろうか。

安延 申(やすのべ・しん)
フューチャーアーキテクト 取締役 事業提携担当,
スタンフォード日本センター理事
安延申


通商産業省(現 経済産業省)に勤務後,コンサルティング会社ヤス・クリエイトを興す。現在はフューチャーアーキテクト取締役 事業提携担当,スタンフォード日本センター理事など,政策支援から経営やIT戦略のコンサルティングまで幅広い領域で活動する。