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 今回からは、企業でIFRS(国際財務報告基準、または国際会計基準)にかかわっている各部の現場リーダーがどのような悩みや課題を抱え、どう対応しようと考えているのかをお伝えしたい。各部門のリーダーのプロジェクトに対するモチベーション向上に役立てば幸いである。今回は強制適用に向けて準備を進めるある中堅上場企業の経理部長の悩みと解決の方策を、できる限り生の声で紹介しよう。

育成方針が大きく変わるわけではない

 「『とりあえず強制適用まで準備しておけよ』と言われても、何をすればいいんだろう」

 経理部長である私は、「早期適用を見送り強制適用まで待つ」旨の報告を社長にし終えると考え込んでしまった。早期適用を図る企業では現状調査や、IFRSと日本基準の差異分析を始めつつあるようだが、当社のように強制適用を待つ場合、いつから何をしたらよいのか。社長は「原則主義のIFRS適用に備えて、経理スタッフの育成を考えておくように」と言っていた。きっと監査法人のC先生から吹き込まれたんだろうな。この勢いだとプロジェクトの進め方も監査法人や外部のコンサルタント任せになってしまいそうだが。

 自席に戻ると、待ち構えていたように中堅スタッフのD君が声をかけてきた。「部長、資産除去債務の件なのですが、よろしいでしょうか」

 経理部門の現場は、現実にはIFRS対応よりも、足元で起きているコンバージェンス(日本基準の改訂)対応に追われている。2009年6月に金融庁から公表されたいわゆる「日本版ロードマップ」において、日本はコンバージェンスしつつ、アドプション(適用)を行うことが明示された。この2つの取り組みにどう折り合いをつけるのかが、現場としては悩ましい(図1)。

図1●IFRSの適用に向けての日本の取り組み<br>実質的にはIFRS適用の準備はすでに始まっている。強制適用の前に日本基準をIFRSに収れんさせる改訂が行われつつあり(コンバージェンス)、それに対応しなければならない
図1●IFRSの適用に向けての日本の取り組み
実質的にはIFRS適用の準備はすでに始まっている。強制適用の前に日本基準をIFRSに収れんさせる改訂が行われつつあり(コンバージェンス)、それに対応しなければならない
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 「現時点で資産除去債務を計上すべきなのは、○○建物内のアスベストと、定期借地権契約を締結している○○になりそうです」。D君に資産除去債務の対応を一任してみたところ、自分でよく考えて取り組んでくれているし、報告は要を得ている。「こうした日々の地道な積み重ねが結果としてIFRSに対応できる経理スタッフの育成につながるといいですね」とB課長が言っていたが、同感だな。

 IFRS適用に向けて経理スタッフに求められる能力としては、以下の3つがよく挙げられる。

  • 基準の目的を理解して業務に適応していく実践力
  • 次々と公表される会計基準にキャッチアップしていく学習意欲
  • 統一の会計基準を現場やグループ会社に浸透させるリーダーシップ

 これらは従来の日本基準下でもある程度は求められてきたことだ。ただし日本基準のような詳細かつ具体的な規定を設ける細則主義(ルールベース)よりも、大まかな原理原則だけを決め細かい規則や数値基準は示さないIFRSの原則主義のほうが、これらの能力が高度に求められると考えられるのではないだろうか。

 B課長に「『会計基準を業務に適応していく実践力』を高めるための取り組み」について報告してもらった。「(1)IFRSの会計基準とりわけフレームワークを理解する、(2)英語でIFRSの原文を読む、(3)ファイナンスの知識を習得する、の3点だと思います」