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はじめに:連載にあたって

 ITはビジネスや組織運営のインフラとなっています。日々のオペレーションから意思決定まで、ITなくして実行できないといっても過言ではない状況です。

 ところがITの重要性が増す一方で、情報システム構築プロジェクトの失敗が後を絶ちません。一説には、失敗の確率は70%にのぼると言われており、成功する確率をいかに上げるかが大きな課題となっています。

 ビジネスプロセス・アーキテクト(BPA-P)協会は、プロジェクトの成功確率を上げるヒントを得るため、「プロジェクトのつぶやき」研究チームを立ち上げました。プロジェクトに参加する人たちの嘆きや怒り、あきらめの独り言である「つぶやき」を集め、ホンネを探ることで、なぜ成功または失敗したかを分析するのが狙いです。

 本連載では、研究チームによる成果の一端を、エピソード形式で紹介していきます。取り上げるのは実際の事例ですが、固有名詞は伏せています。経営者を含むプロジェクトに関わる人たちの参考になれば幸いです。


 老舗の中堅機械メーカーA社は、堅実経営で知られている。A社の佐藤社長は創業者の子息で、大学卒業後、大手商社に勤務していたが、5年前にA社に入社し、昨年社長に就任した。

 創業社長の時代は、勘と経験と根性で経営するスタイルだった。佐藤社長はそれを近代的な経営に変えたいと考えていた。就任後一定期間が経ったので、自分の色を出したいという思いもあった。

 そこで会社の実態を正確に把握しようとしたときに、自社の情報システムに問題があることに気付いた。「何だ、うちの情報システムは? 必要な情報をタイムリーに見たいのに、全くできないじゃないか」。

 佐藤社長は早速、松本社長室長に相談することにした。松本室長は3年前に取引銀行からA社に出向し、昨年転籍して取締役社長室長を務めている。佐藤社長は常日ごろ、松本室長に厚く信頼を寄せている。

シーン1:社長室
「コストに見合う効果が大切だ」

佐藤社長:松本さん、わが社の情報システムをどう思う? これでは経営に使えないと改めて感じたよ。必要な情報が全く得られない。得られる情報の種類がそもそも少ないし、参照できても締め後3週間後の情報だからね。ひどいものだ。

松本室長:私も前々からシステムは問題だと思っていました。もっと詳細に会社の状況を把握したいと思い、情報システム部にいろいろな経営データを依頼しているんですが…。

佐藤社長:で、どうだって?

松本室長:「残念ながら、希望されるデータは管理していません」といつも一蹴されてしまいます。さらに、こんなことを言うんですよ。「室長はメーカーの経験が無いから、そんなことを言われるのでしょうが、当社はこのやり方でちゃんと利益を上げています。しかも非常に低コストでシステムを維持管理しているので、経営にも貢献しています。これからもこのやり方でよいと思います」って。

 もちろん、システム運用のコストを下げることが大切なのは十分理解しています。でも、彼らが言うことは少し違う気がするんです。

佐藤社長:そこなんだよ、問題は。情報システムの絶対コストが低ければいいわけではない。コストに見合った効果を出しているかが大切だ。その点、うちの情報システムのあり方には大いに疑問を感じる。

 一度、情報システム部の石田部長と話をしてくれないか? あと、松本さんの出身の銀行のコンサルタントにも相談してほしい。

松本室長:承知しました。話をしてみます。

松本室長のホンネ
システム門外漢の私が石田部長を説得して、
社長のニーズに応えるシステム計画を作れるだろうか?