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 また総理が変わりそうだ。事実上、分裂状態の民主党だから誰が総理になっても短命に終わりがちなのは想定内だ。しかし、問題は民主党の代表交代のノウハウやルールが見えにくいことだ。無意味な代表戦をやった経緯も含めて総理2名の選ばれ方、辞めさせられ方はどうも行き当たりばったりだ。

 どうやら民主党には党内ガバナンスの仕組みがない。ガバナンスなき政党にはたしてガバメントの運営を任せていてよいのだろうか。現状は、まるでどこかの国の少年兵が政権を奪取したような状態であり、この先いったい何をしでかすかわからないという不安がある。

問題はマスコミ報道

 私が問題提起したいのは、“危険物”と化した政権与党の動向をめぐるマスコミ報道のあり方である。マスコミはちょっとした対立劇を見つけては、「小沢はどう出るか」「解散総選挙か」「新党立ち上げか」「政界再編か」「次は誰か」と騒ぎ立てる。ネタがなくなると内閣支持率の変化や各地の首長選挙の結果を針小棒大に報道し、政権政党の衰兆を騒ぎ立てる。安倍政権以後、これを繰り返してきた。

 こうした報道姿勢は形の上では権力をチェックするプレスの本務に見える。だが結果は逆だ。目先のニュースで国民を不必要に躍らせ、政治をショー化し、目立ちたがりの政治家を政局に駆り立てる。結果として、まじめな政治家がじっくり政策に取り組む環境を壊していく。ここ数年の混乱を振り返り、もっと冷静に深層潮流を見据えた報道をしていただきたい。

 私はもともと経営学者であり、政局には精通しない。だが、選挙制度の本質と議員の行動原理(再選志向と資金不足)に照らせば、今の日本の政治には以下の運動法則があるような気がする。

今の「政局」を読み解く視点

(1)民主党は日米関係、子ども手当、尖閣問題など失敗を重ねてきた。したがって次の総選挙では惨敗する。新人の大量落選は確実だし古株も危ない。内部分裂の危機を繰り返しながら、結局、2013年秋までは政権に居座るだろう。

(2)総選挙の直前には民主党は分裂し、新党が乱立するだろう。あるいは自民・民主の大再編である。しかし2013年までは政界再編は起きないだろう。民主党は麻生政権末期と同様の居座り作戦を経て自滅するだろう。

(3)政権運営はどうか。参議院のねじれ問題があり、党内には官僚を使いこなせるベテラン議員がいない。小沢氏の裁判を抱え、野党にも阻まれ、斬新な政策で実をあげるのは不可能だ。行政改革も政策刷新も不可能だろうし現状維持すら危うい。しかしそんな中でも、政権与党らしく何かを「やっているふり」をしなければならない。与党だから野党批判は主題にできない。となれば自ら見せ場の劇場を造って消化試合を演じる。そこでひたすら時間をつぶすしかない。さてどんな劇場か。一つは官僚いじめ、もうひとつは小沢批判である。

(4)「官僚いじめ劇場」は、体育館を借りて派手にやる事業仕分けで一定の評価を得た。主演女優の蓮舫氏と脚本書きの財務省の能力が高かったからだ。だが人気は続かない。蓮舫氏は次の総選挙の時の顔にとっておかねばならず、当面は使えない。主演女優に合わせてこっちの劇場はしばしお休みである。

(5)もう一つの「小沢劇場」は、仕分け劇場が休業に入ってから一気に立ち上がった。最大の見せ場は検察も参加してのクロかシロか、起訴する、しないの大騒動である。あれで3カ月は消化できた。続いて菅VS小沢の総裁選である。やる意味がもともとないのにあえてやって国民の注目を集め、居酒屋でも「菅か小沢か」と盛り上がった。

 自民党は小泉時代に党内の守旧派をたたき、国民の喝采を得た。ヒール役は亀井静香氏だった。その役を今は小沢氏がやっている。そういう意味では「小沢氏さえいなければ民主党はよくなる」という反小沢勢力は、結果的に反小沢のお囃子をはやし立て、悪役を舞台で引き立てている。“えせ”改革派の極みであって、たちが悪い。劇場を長引かせる張本人だからだ。本気で反小沢というのなら、小沢氏を除籍処分とし、あるいは自ら脱党すればいい。だがそこまでの勇気がない。

 一方「小沢氏が総理になれば民主党は機能する」という小沢派も同様だ。刑事被告人が総理になっても権威はない。海外が信用しないし、国民はついてこない。要は民主党は小沢氏を材料に党内抗争を繰り返し、それでマスコミを振り回し、時間つぶしの消化試合をやっている。意識してやっているならまだいいが、それに気が付かずにやっているのではないか。

 マスコミ報道の役割は、“消化試合”で単に政権維持だけを目的として漂流する民主党に一刻も早く、解散総選挙を迫ることに尽きる。

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山信一



慶應義塾大学総合政策学部教授。運輸省、マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。「大阪維新の会」政策顧問、新潟市都市政策研究所長も務める。専門は経営改革、地域経営。2009年2月に『自治体改革の突破口』を発刊。その他、『行政の経営分析―大阪市の挑戦』、『行政の解体と再生』、『大阪維新―橋下改革が日本を変える』など編著書多数。