日本の上場企業がIFRSを適用する際に利用するのは、金融庁が定めた「指定国際会計基準」である。こうした方法を採る場合、IFRSのなかで、いくつかの基準を採用しない「カーブアウト」が発生する可能性が生じる。
IFRSの目的を損ねる可能性も
日本のように規制当局が一度、IFRS(国際会計基準)の内容を検討して自国で採用するかどうかを判断している国や地域は多い。05年にIFRSの強制適用を始めたEU(欧州連合)やオーストラリアもこの形を採る。
IFRSをそのまま受け入れないのは、自国の会計基準としてIFRSがふさわしいかどうかを判断する必要があると捉えているからだ。金融庁は、「経済実態に適合し合理的な内容であると、多数の関係者が評価している」ことや「関係者間で適切な議論がなされている」ことなどを検討事項としている。

こうした方法は「カーブアウトを生みやすい」と米ライス大学のスティーブン・ゼフ教授(写真)は指摘する。同氏は会計基準設定の歴史的比較などを専門とし、米国の会計学会会長などを務めた。
IFRSは、国際間での上場企業の比較可能性を担保するために登場した基準だ。カーブアウトが発生すると、IFRSの目的を損ねる可能性がある。ところがゼフ教授によるとIASBが公表したIFRSをそのまま採用するのは「南アフリカとイスラエルだけ」という。
日本と方式は異なるものの、IFRSを採用している世界100カ国以上の国は、IFRSをそのまま採用していないことになる。
カーブアウトが発生するのは、「各国におけるビジネス慣習や法律にはそれぞれ長い歴史がある。IFRSを強制適用するからといって、今までの慣習を簡単に変更するのは難しい」(ゼフ教授)という事情があるからだ。
IASBは現在、「収益」や「リース」といった日本企業に対しても影響が大きい会計基準の改訂を続けている。今年末まで主要な基準の改訂が続く見込みだ。その多くは改訂完了後、一定期間を経て指定国際会計基準となるとみられる。ただし、すべてが指定国際会計基準になる保証はない。
日本で任意適用や強制適用に向けて準備を進めている企業は、IASBの基準策定状況だけでなく、金融庁が新たな基準を指定国際会計基準に定めるかどうかも注目する必要がある。