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 SI会社の社長を務める友人K君と居酒屋で飲んだときのことだ。K君がグラス片手に語り出した。「あのときは怒りを通り越して、途中からあきれてしまいましたよ。あんな人がいるのですね。本人は格好良いと思っているんでしょうか」。普段は飲み屋ではほとんど仕事の話をしないK君だが、このときは相当にストレスがたまっていたようだ。話の中身はこうだ。

 K君が経営するA社は海外パッケージソフトの導入を得意とするSI会社である。米国のあるベンチャー企業のパッケージソフトが日本の大手ユーザー企業B社に採用され、その導入開発をA社が担当することになった。A社は30代社長のK君が引っ張る若手主体の小さな会社で、B社の仕事はビッグチャンス。K君自らがプロジェクトマネジャーとしてこの案件に臨んだ。開発体制はB社のシステム子会社C社が主体となり、A社はC社の指示のもとで開発に取り組む。B社からは利用部門の数人がエンドユーザーとして参加した。

 開発は、プロトタイプをどんどん作りながら進めていく手法を取った。週に2回のエンドユーザーとの打ち合わせを設定し、その都度修正したプロトタイプの画面を見ながらユーザーの意見を聞いて修正点を決めていく。

 最初のうちは順調であったが、プロトタイプによる開発はどうしてもユーザーの「行きつ戻りつ」がある。一度出た要件が覆され、直したと思ったら、やっぱり以前の仕様でいい、といったことが次第に多くなってきた。そして、「そろそろ締めないとスケジュールに確保していたバッファーがなくなるな」とK君が思い始めた矢先、トラブルは発生した。パッケージソフトに重大なバグが見つかったのである。

 英語が堪能なK君は国際電話をしたり、メールでバグの状況を詳しく説明したりしたが、開発元である米国のベンチャー企業の動きは鈍い。K君が粘り強く説明を繰り返してようやく開発元がバグを認めた。その後の対応にも時間を要し、解決はしたもののプロジェクトの遅延は明らかだった。

 さて、この遅延をどう取り戻すかとK君が思案していると、C社の担当者からすまなそうに連絡があった。「パッケージの不具合でプロジェクトが遅延気味であるという情報がB社のH次長の耳に入って、それでH次長がA社を連れてこいというのです」。

 K君はH次長と聞いてもすぐには誰のことか分からなかった。キックオフのときの議事録に名前があるのを見て、ようやく思い出した。キックオフのときは特に何も発言しなかったし、プロジェクトが始まってからは会議に一度も参加せず、議事録の報告ラインにもなっていなかった。そのH次長が何の用事だろうと訪ねてみると、いきなり罵声を浴びたのである。

 「どうなってるんだ。このプロジェクトのオブザーバーである俺の顔をつぶす気か」「もしプロジェクトが失敗したら、おまえの会社なんてつぶしてやるから覚悟しておけ」と脅し文句を矢継ぎ早に繰り出してきたそうだ。

 K君はその場は反論を我慢して、B社の担当者にこの件を相談した。するとその担当者からは「H次長はこのプロジェクトのオブザーバーではありません。なぜキックオフに参加していたのかも不思議に思っていました。大きな声では言えませんが彼は閑職で、何かあると吠えて存在感を示すのです。この件は部長にそれとなく言っておくので気にしないでください」と慰められたという。暴言には腹が立ったが、そこはK君もプロ。ユーザーの理解も支えになり、開発の優先順位を調整してリカバリーしたそうだ。

 筆者も過去何回かこの手の輩と遭遇したことがあるが、困ったものである。暴言や脅しではプロジェクトの進捗遅れは取り戻せない。むしろメンバーのモチベーションを下げるだけだ。どんな状況でも、品性を持って仕事をしたいものである。

永井 昭弘(ながい あきひろ)
1963年東京都出身。イントリーグ代表取締役社長兼CEO、NPO法人全国異業種グループネットワークフォーラム(INF)副理事長。日本IBMの金融担当SEを経て、ベンチャー系ITコンサルのイントリーグに参画、96年社長に就任。多数のIT案件のコーディネーションおよびコンサルティング、RFP作成支援などを手掛ける。著書に「事例で学ぶRFP作成術実践マニュアル」「RFP&提案書完全マニュアル」(日経BP社)