PR

 『日経SYSTEMS』の特集「この『図解』がIT現場を変えた」を読んで、我が意を得たりと思わずひざを打った。相手に何かを伝えるとき、図解を有効活用することはITエンジニアにとって非常に重要なスキルである。特にユーザーに提示する提案書やプレゼンテーションでは、提案内容を分かりやすく訴求できるかは、図解の出来栄えが大きく左右する。筆者は商売柄、多くの提案書を目にする。そこで感じるのは、提案書の品質が全体的に落ちてきているのではないか、という懸念である。今回はそのことをお伝えしたい。

 まずは第一印象である。表現は悪いがどんどんケバくなっている。赤、青、黄色の原色をすべてのページに使い、さらに紫、茶、緑などの濃色をこれでもかと使っている。このような提案書は見た瞬間に読む気を失ってしまう。

 しかし、こうした色使い以上に気になっているのは、提案書一枚ごとのメッセージ性である。

 筆者が若手のころに上司や先輩から繰り返したたきこまれたのは「何が言いたいのかポイントを絞れ。1ページ1メッセージが原則だ」ということ。ところが最近よく目にするのは、1ページに細かい字とイラストがぎっしりと詰め込まれ、なおかつ多色使いのケバケバしい絵である。パッと見て、どこに焦点を合わせたらよいのか分からない。またコピー&ペーストがバレバレの、文章と調和しない絵が突然出てきたりもする。だからこのページで何を訴えたいのか見えてこないのである。

 筆者は仕事なので、隅々まで目を通して「なるほど、コレとコレとコレが売りなのね」となんとか見つけ出すが、ユーザー側の意思決定者が同じように忍耐の要る作業をしてくれると思ったらその時点でアウトだ。

 提案書における図表作成力低下の原因は、PowerPointなどのプレゼンテーション・ソフトの普及にあることは間違いない。ただし誤解のないように断っておくが、プレゼン・ソフトを否定しているわけではない。むしろ筆者は、PowerPointを使えなければ飯の食い上げになってしまうほど活用している。問題はソフトの機能に甘えて、安易にコピペやカラフルな仕上げに頼っている使う側の姿勢であろう。

 ソフトが普及する以前のプレゼンはフリップチャート(模造紙)かOHPが主流であり、それらは基本的に手書きかせいぜいワープロで作った。従って黒、赤、青の油性ペンで、伝えたいメッセージを手書きで描いた。あるいはワープロの作図機能で四角と丸を駆使して、制約の多い中でシステム構想図や全体構成図などを工夫して作成したのだ。手書きなので、途中でやり直すと大変な労力がかかる。

 提案書も、ワープロの文章に図を切り張りして作った。まさに「一枚入魂」である。ベテランのITエンジニアならば、皆さん懐かしい思い出があるだろう。この一枚入魂を、ぜひともプレゼン・ソフトを利用する際にも意識してほしいのだ。いきなりソフトを立ち上げ、とりあえず入力を始めたり、どこかから使えそうな資料をコピペする前に、まずは裏紙を持ってきて、手書きでラフなイメージを描こう。

 手書きという行為は、考えを整理するのに有効で、脳を刺激するのでアイデア出しにも効果的だ。この1ページでユーザーに何を伝えたいのか、次のページでは別の何を伝えるのか。それを読み手の立場に立って作ることができれば、必勝の提案書となるであろう。

 そのような意識があれば、コピペも生きてくる。ただなんとなくコピペしてくるのと、明確に「これをこの意味で使おう」という意思の下にコピペするのではまったく次元が違う。ITエンジニアに必要なコミュニケーション能力の一つとして、個人はもとより会社としても図を描くスキルの向上に取り組んでもらいたい。それは必ず、競争力強化、業務効率化といった利益をもたらしてくれるはずだ。

永井 昭弘(ながい あきひろ)
1963年東京都出身。イントリーグ代表取締役社長兼CEO、NPO法人全国異業種グループネットワークフォーラム(INF)副理事長。日本IBMの金融担当SEを経て、ベンチャー系ITコンサルのイントリーグに参画、96年社長に就任。多数のIT案件のコーディネーションおよびコンサルティング、RFP作成支援などを手掛ける。著書に「事例で学ぶRFP作成術実践マニュアル」「RFP&提案書完全マニュアル」(日経BP社)