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 「残念ながら、その日が来ました」。こう言い残し、スティーブ・ジョブズ氏が米アップルのCEO(最高経営責任者)を辞任した。カリスマは表舞台から姿を消したが、今後もジョブズ氏の「遺産」がIT業界の再編を促すのは確実だ。

 理由は大きく二つある。

 最初の理由は、ジョブズ氏がIT業界の競争環境を、根本から変えてしまったことだ。

 その影響をもろに受けたのが、米ヒューレット・パッカード(HP)である。HPのPC事業は世界シェア首位だが、タブレット端末を含めると状況は変わる。米ディスプレイサーチが発表した2011年4~6月のモバイルPC世界出荷実績によると、iPadを1070万台出荷したアップルが首位となった。一方でHPは大きく出遅れ、8月、タブレット端末の開発打ち切りと、PC事業の分離検討の発表に追い込まれた。近い将来、PC市場で勢力の大変動が起きるのはほぼ間違いない。

 スマートフォン市場でも、アップルが再編を促している。米グーグルは8月、米モトローラ・モビリティを125億ドル(約9500億円)で買収すると発表した。アップルが提起した特許紛争から「Android陣営」を守るのが狙いだが、グーグル自体が端末メーカーになったことで、サムスン電子などと一部競合する立場になった。今後、端末メーカーの間で再編が誘発される可能性がある。

図●アップルが引き起こした電機・IT業界の再編劇
図●アップルが引き起こした電機・IT業界の再編劇

 もう一つの理由は、ジョブズ氏在任中に、アップルが「巨大化」したことだ。

 8月31日、東芝と日立製作所、ソニーの3社が中小型液晶事業の統合を発表した背景はここにある。iPhoneとiPadを擁するアップルは、大量の液晶パネルを調達する。同社の増産要請に応えるためには、統合による規模の追求が必要になる。これが国内電機メーカーの背中を押した格好だ。

 アップル自身が、業界再編の台風の目となる可能性もある。6月末時点で保有する現金と有価証券の総額は約760億ドル(約5兆7800億円)に達する。これに対して、例えばHPの9月2日時点の株式時価総額は約500億ドル(約3兆8000億円)にすぎない。

 ジョブズ氏の後任となるティム・クックCEOは、資金の活用戦略を市場に示す必要が生じる。大型買収から距離を置いてきたアップルだが、戦略転換の可能性は否定できない。