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 今、急速なグローバル化が進展している。一国では解決できない地球規模の問題が相次いで起こっている。東京電力福島第1原子力発電所の事故はその最たるものだ。放射能汚染は地球規模で広がり、日本だけの閉じた問題ではない。このほかにも、世界には食糧問題やエネルギー問題など様々な課題が山積している。

 そうした状況の中で、グローバルなインフラであるインターネットの役割は大きい。島国の日本人にはとかく自国優先の意識が強い。だが、インターネットの世界には国境はなく、世界で約20億人がつながっている。日本はガラパゴスなどといわれながらも内向きの繁栄を謳歌してきた国である。日本の優れた技術や文化、生活習慣などをインターネットを使って世界標準にするなどグローバル化を進めるチャンスである。

家電やクルマなどの再定義を 米アップルはそれに成功

アレックス 代表取締役社長兼CEO (Google日本法人 元代表取締役社長) 辻野 晃一郎 氏
アレックス
代表取締役社長兼CEO
(Google日本法人 元代表取締役社長)
辻野 晃一郎 氏

 インターネットやクラウドの登場により、20世紀に定義したことを再定義しなければならなくなってきた。例えば、20世紀に日本の家電メーカーが世界を席巻していたテレビ。インターネットやクラウドによって、「雲を覗く窓」(クラウドへアクセスするデバイス)として再定義されることになる。

 その際、クラウドとどのように連携していくかが重要になる。家電の再定義をビジネスとして初めて成功させたのは米国のアップルである。スマートフォン「iPhone」やタブレット端末「iPad」はインターネットと巧みに連結しながら、新しいデバイスの世界を切り開いた。

 これまで単独で利用していたテレビなどの家電製品はクラウドと連動し、必要な情報はクラウドにアクセスして入手する時代を迎えている。実際、グーグルが開発したAndroidのようなオープンプラットフォームを核に新たな家電製品を再定義する動きが広まっている。

 自動車の世界でも再定義の動きはある。その代表格が米国シリコンバレーで誕生した電気自動車メーカーのテスラモーターズだ。20世紀に日本は自動車でも世界を制したが、今後、ITの世界の人々がITデバイスとして自動車を再定義するだろう。エネルギー供給網や交通網の整備など、クラウドと連携した生態系の中で新たなクルマ社会をつくろうとしている。

 以前のように単に家電や自動車の性能を向上させれば売れる時代は終わった。アップルがスマートフォンで見せたように、ユーザーに新たな体験をいかに提供するかといった生態系を日本企業も提示する必要があるだろう。

イノベーションを重んじるソニーとグーグルの共通点

 日本の国際競争力の低下をいかに食い止めるかは大きな課題だ。日本は20世紀後半に家電や自動車などで世界に冠たる経済大国となった。日本企業が自信を取り戻し、再び世界で羽ばたくために、私が在籍したソニーやグーグルから得たことを紹介する。

 ソニーの創業者の1人である井深大氏が書いた設立趣意書の冒頭に「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」という記述がある。これは、技術者の夢やイノベーションを重視した現在でも通用する優れた企業理念といえる。

 昔のソニーには進んでリスクを取り他人がやらないことをやる「モルモット精神」があった。その大切さを私は学んだ。日本の国際競争力が低下した要因の1つは、日本人が安定志向になり、リスクを取らなくなってきたことがある。転換期の今こそ、リスクを取ってチャレンジする精神が大切だ。

 ソニー退社後、日本法人の社長を務めたグーグルも普通の会社にならないことをステークフォルダーに約束している。そのグーグルには、活動指針となる「10の事実」がある。その1つに「スーツがなくても真剣に仕事はできる」などというものもあるが、これはイノベーションが普段のカジュアルなコミュニケーションの中から生まれる、という考えによる。

 ソニーとグーグルに共通するのは、イノベーションを標榜してきたことだ。イノベーションを起こすためにはリスクを取らなければならない。そして、どんなにすばらしいアイデアやテクノロジーがあっても、広く普及しなければイノベーションとはいえない。

 例えば、グーグルのストリートビューは、プライバシー問題などの課題もあるが、「世界中の情報を整理し、誰でもアクセスできるようにする」という社是に基づいて、地道に続けてきた結果、徐々に受け入れられつつあるイノベーションの一例とも言える。

新しいチャンスをつかむコツは変化を拒まず積極的に楽しむ

 インターネットの世界は変化が速い。その変化を拒まず、積極的に楽しむといったスタンスが新しいビジネスチャンスをつかむことになると思う。日本の製造業は20世紀に高品質なものづくりで世界をリードしてきた。しかし、高度成長期に製造業が築き上げた成功体験が、今や足かせとなっているようだ。行動する前に石橋を入念にたたき、意思決定やアクションに時間がかかるケースがよく見受けられる。

 工業時代と異なり、インターネット時代ではやらないことのリスクのほうが高い。考えてから行動するのではなく、走りながら考える姿勢が必要なのだ。

 インターネットとクラウドを生かす業務スタイルに転換することもポイントになる。クラウドの本質は、社内外の情報共有を促進して経営のスピードを上げることにある。ビデオ会議の開催中に参加者の意見を集約し、経営者が意思決定のスピードを上げ、会議終了後にはクラウドを介して全社に決定事項を通知し、迅速に情報を共有することも不可能ではない。

 現在、日本だけでなく、世界が混迷しているが、それは新しい秩序に移り変わる前夜だからではないか。インターネットやクラウドなどのコンピューティングパワーを活用し、ビジネスができる恵まれた時代である。日本企業がそうしたITのメリットを最大限に活用すれば、日本は再び活力ある国になるだろう。