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 香港には、三つのSがある。最初に感じるSはせっかち、ではなくて“Speed”だ。

 香港の人はスピードを重視する。東京と同じタイミングでエレベーターに乗ると、扉によく挟まれる。中を見ると、ゲーム機のごとく「閉」ボタンを押している人と目が合う。なんとなくエレベーターの速度も速いし、話し方も速い。街もどんどん変貌する。どんなに高いビルでも、竹で足場を組んであっという間に完成させる。

 生活のペースのみならず、仕事のペースも速い。2年ほど前に当地で2個目のデータセンターが開設された当時は、「今後5年間の需要に対応できる」とみられていた。だが引き合いは予想以上に多く、赴任1年目にして、香港東部の新興地区「将軍澳」に3拠点目の新データセンターを建設することになった。

 次のSは“Smart”、優秀な人材がいることだ。大学ランキングで有名な英クアクアレリ・シモンズの2011年調査では、アジアの大学トップ10の1位に香港科技大、2位に香港大、さらに5位に香港中文大と3校がランクインしている。

 他のアジア諸国と同様、香港でも教育にかける情熱はすごい。世帯普及率が84%に達するブロードバンドを使った教育もとても盛んだ。「Hong Kong Education City」という政府出資のWebサイトでは、9割以上の教師がアカウントを登録して、お互いの教育方法について情報交換する。子供はそのサイト上で宿題を提出し、さらには、子供の親が議論に参加したりする。資源の全くない香港にとって、優秀な人材作りは重要なことであり、ブロードバンドの普及も不可欠な要素になっている。

 最後のSは“Seamless”である。海外から来た企業や人にとって、香港には障壁がない。例えば、外資企業にかけられる法人税は地元企業と同じ税率の16.5%。対内・対外投資に対する制限や外国為替への規制もない。

 法体系は、英国のコモン・ローの影響が色濃く残されており、ビジネスの基本言語も英語。住宅や教育、医療といった都市機能の面でも国際化しており、海外企業や外国人にとって活動しやすい環境が整っている。普及率が193%に達する携帯電話は地下鉄の中をはじめ、どこにいてもつながる。いつでもどこでも能力を発揮できるシームレスな環境と言えるだろう。

 これら三つのSは、目的を達成する手段として有効に機能する。つまり、柱となる基本の戦略(Strategy)が明確ならば、香港ほど戦略を実行するのに有利な場所はないはず─。そんなことを考えながら、またエレベーターの扉に挟まれると、せっかちな香港人が、閉ボタンを押しながらバツが悪そうに笑っていた。そうそう、香港にはもう一つ、“Smile” もある。

前田 隆伸(まえだ たかのぶ)
NTTコミュニケーションズの香港現地法人であるNTTコムアジア社長。仕事では、常に前向きに将来への希望を持って努力するアジアの人々に感化される毎日。プライベートでは、赴任以来、香港の自然の豊かさにも驚き、バードウォッチングやバーベキューなど野外活動にいそしみながら、少年時代にボーイスカウトで培ったノウハウを思い出している。