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 筆者がRFP(提案依頼書)作成のコンサルティングを行うとき,ユーザー側からITベンダーに要求することの一つに「プレゼンテーションは必ずプロジェクト・マネージャ候補者が行ってください。それが守られない場合は,プレゼンテーションを中止する場合があります」という項目がある。

 この要求を見て,顔をしかめるベンダーがしばしばいる。受注できるかどうか未確定の段階で,プロジェクト・マネージャ(プロマネ)をアサインするのはベンダーにとっては確かに厳しい。失注リスクがあるだけでなく,ほかの営業案件の進捗にも影響するので,プロマネのアサインはできるだけ先に延ばしたいという気持ちはよく分かる。

 しかし,プレゼンをプロマネにやってもらうことは,ユーザーにとって非常に重要な発注先選定の判断材料であり,ベンダーにとっても,商談に勝つために必要なことなのだ。筆者はあるユーザー企業の案件を機に,この要件を必須にしたのである。

 その案件では,ある業務分野のパッケージの新規導入を検討し,ベンダー3社のコンペとなった。1社は提案書の出来が今一つで落選となったが,残りの2社(A社とB社とする)は甲乙つけがたく,プレゼンが勝負の場となった。このとき2社に出した要望は「時間は質疑を含め1時間半以内で,プレゼン内容は任せる」「プロジェクタとスクリーンは用意するが,機材の持ち込みも可能」という内容で,プレゼン担当者に関する注文は特につけなかった。

 A社は外資系企業で,洗練された印象を与えるベンダーであった。プレゼンには2台のプロジェクタとスクリーンを持ち込んだ。画面イメージを1台で出しながら,もう1台で同時に要点を説明するという演出を駆使して,非常に分かりやすいプレゼンだった。プレゼンを担当したのは提案パッケージのプロモーションのエキスパートで,シナリオや話術も申し分なかった。

 一方,B社は国内の中堅ベンダーであった。機材はユーザー側で用意したものを利用した。プレゼンを行ったのは,受注したらプロマネを務める予定のITエンジニアであった。彼はややもっさりした印象で,プレゼンの話術もあまり上手ではなく,何度かミスも見られた。しかし,一生懸命プレゼンする姿には,なんともいえない人柄の良さや,自分が中心となって頑張っていくという熱意が感じられた。

 プレゼンの評価は当初は真っ二つに分かれた。A社支持派は「プレゼンが抜群に上手だった」「しっかりしたベンダーとの印象を受けた」「B社はプレゼンの内容も人もやぼったい」と主張した。B社支持派は「プロマネの熱意を強く感じた」「しゃくし定規ではなく,融通が利きそう」「A社はプレゼン担当者がプロジェクトを実際にやるわけではない」といった意見だった。

 しかし,協議していく中で次第に「A社のプレゼン担当者はプロマネではないから,実際にどうなるかは分からない」という意見が強く支持されるようになり,最終的にB社に決まった。

 この選考プロセスを見て,「プレゼンはプロマネがやること」を要件とする必要性を強く感じたのである。ユーザー,ベンダー両者の利益になるからだ。ユーザーにとって,専門の担当者が実施したプレゼンは,どんなに上手であっても,料理に例えればきれいな盛り付け写真にすぎない。プロマネがやれば,「一口試食」したことになる。両方を試食しなければ本当にどちらがおいしいかは分からない。

 ベンダーにとっても,どんなに入念にプレゼンの準備をしても,最後に「プロマネがどんな人か分からず不安だから」という理由で落選したら,悔やんでも悔やみきれないだろう。

 IT調達の現場では,さまざまな意思決定における力学が働く。それをなるべく公平に,客観的にするようRFPは作られるべきだ。「プレゼンはプロマネがやること」という厳しい要件には,きちんと理由があるのだ。

永井 昭弘(ながい あきひろ)
1963年東京都出身。イントリーグ代表取締役社長兼CEO、NPO法人全国異業種グループネットワークフォーラム(INF)副理事長。日本IBMの金融担当SEを経て、ベンチャー系ITコンサルのイントリーグに参画、96年社長に就任。多数のIT案件のコーディネーションおよびコンサルティング、RFP作成支援などを手掛ける。著書に「事例で学ぶRFP作成術実践マニュアル」「RFP&提案書完全マニュアル」(日経BP社)、