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 花王では、ドラッグストアなどの売り場をそっくりそのまま再現した場所「ストアラボ」で、商品の陳列の良しあしをとことんシミュレーションし、売り場作りの横展開(ヨコテン)を徹底する取り組みがある。この手法を花王は「現物マーチャンダイジング(GMD)」と呼び、2004年から続けてきた。実際に商品と販促物を並べ、目立ち具合や手に取りやすさ、棚全体の見栄えを関係者全員で最終検証して了解し合う。

 例えば、店頭陳列に工夫が要るといわれるのが白髪染めだ。商品パッケージが似通っていることが多く、通常の黒髪を染める商品と混同されやすい。だからといって店頭で白髪染めを強調し過ぎると、初めて白髪染めを手に取ろうとする女性客が近寄りにくくなる。主張のさじ加減が難しい。

 そもそもヘアカラーは顧客に説明しなければならない機能面の項目が多い。カラーバリエーションの違いを伝えるのも容易ではない。実際の売り場には他社のヘアカラーも並ぶので、色の微妙な違いは小冊子や色見本をじっくりと見て判断してもらいたいのがメーカーの本音である。だとすれば、顧客が自然に販促物に手を伸ばせるようにするにはどうやって棚を構成するか。できるだけリアルにイメージを膨らませながら、売り場のあるべき姿を決めておかなければならない。

 かといって、発売前の新商品を小売店に持ち込んで事前に陳列を検証するのはもちろん不可能だ。そこでGMDの取り組みが真価を発揮する。

 2010年7月27日の午後。都内にあるストアラボに、翌々月の9月18日に発売する白髪染め「ブローネ 泡カラー」の商品担当者やマーケティング担当者、チェーンストア担当者など男女数人が集まってきた。今回はストアラボにブローネ泡カラーの棚を用意した。商品パッケージの色の見栄えや光の当たり方、商品の分かりやすさなどを店頭にいるのと同じ目線で体感しながら検討していった(写真)。

写真●2010年9月に出した新商品の発売前である同年7月下旬にGMDを開いた時の様子
写真●2010年9月に出した新商品の発売前である同年7月下旬にGMDを開いた時の様子
現物を前に「遠・中・近」の3 つの視点で顧客に伝えるべき情報を確認する。売り場の「遠く」からでも見える、売り場の「中」に入ってきた時に気づく、「近寄って」商品を手に取って分かることをそれぞれ意識する。GMD で確認した内容を踏まえ、売り場作りの「店頭活動ガイド」を8月初めまでに作成。店舗を回る花王マーチャンダイジングサービス(KMS)の社員に新発売の30~40日前から伝え始める。花王は独自の陳列ソフト「コクピット」(左)を持っているが、これだけだと商品の店頭での見栄えや質感、奥行きなどを確認しづらいため、議論が深まらない
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 刷り上ったばかりの商品パッケージを並べてみて、手に持った時の触感や、サイズと奥行きといった立体感を現物で確かめた。単品ではよく見える商品でも、棚に何個も並べてみると逆に何の商品なのか分かりにくいこともあるという。

 次いで、商品パッケージ群の周辺に、商品をアピールするための看板や帯、商品を説明した小冊子、ヘアカラーには欠かせない色見本といった販促物を配置し、棚全体のコーディネートの完成度をチェックした。化粧品であれば、ここに香りのテスターなども設置する。

現物を使った体感で関係者全員が納得

 ブローネの担当者も現物を見ながら、「販促物はやっぱりこっちに置いたほうが手に取りやすいんじゃないの?」という具合に、顧客の目線に立って売り場作りの最終イメージを詰めていった。現物を前にすると自然に話が弾む。

 このようにGMDは極めてアナログな手法だ。それでも「議論を深めるにはGMDが一番良かった」と花王カスタマーマーケティング(東京都中央区)の堀康人経営企画部門コーポレートコミュニケーショングループリーダーは話す。

 実は花王はバーチャルに棚割りを検討できる「コクピット」という陳列ソフトを以前から持っている。だが関係者全員を画面の前に集めても現物を手に取りながら話ができるわけではないので、「いつも『これでいいね』で話がすぐに終わってしまった。現物が無いと体感が得られず、議論が深まらないことが分かった」(堀グループリーダー)。

 しかも陳列ソフトでしか検証しなかった時は、売り場で指示通りに商品や販促物を並べてみても、微妙にサイズが合わず「完成図通りに陳列できない」というトラブルがしばしば起こり、花王は苦い思いをしてきた。GMDはそうした過去の反省を踏まえて始まった。

「店頭活動ガイド」の作成にGMDは必須

 新商品の発売が近づくと、花王は遅くとも30~40日前までにはGMDを実施する。花王の商品を売り場で際立たせ、顧客に商品を手に取ってみようかと思わせる社外秘のビジュアルマニュアルを完成させるためだ。

 このマニュアルは、棚のどこにどの順番で商品や販促物を並べていけばいいかを簡潔に解説したもの。売り場作りを担当する花王マーチャンダイジングサービス(KMS、東京都中央区)に「店頭活動ガイド」として提供する。このマニュアルを日用品のときは約700人、化粧品のときは約500人いるKMSの売り場作り担当者に渡す。KMSの沖英典本部企画グループH&BCチームリーダーはガイドの配布後に売り場作り担当者に同行し、自分の目で売り場を見届けて修正をかけることもある。

 GMDで検証するようになってから、「店頭活動ガイド通りに商品や販促物を並べても、完成図のように陳列できない」という問題はまず発生しなくなった。沖チームリーダーは「GMDを実施して以降、売り場の実現率が格段に上がった。ガイドの出来具合が店頭実現に直結するので、作成前の川上(本社)でのGMDは欠かせない」と明かす。

 もちろん、現実の売り場はストアラボとは環境が異なる。チェーンごとに売り場作りのポリシーが違うし、花王が意図した棚を確保できないこともある。「前週に並べた在庫が売れ残っていれば、それを吸収しながら新たに棚を作るような対応も求められる」(沖チームリーダー)。

 しかしGMDで売り場のあるべき姿をしっかりと固めておけば、あとは売り場ごとに「必要な要素の中で優先順位が低いものから順に切っていく」(同)ことができる。

 次回は、3カ月に1度、営業状況の浮き沈みを管理職に体感させているエレコムの取り組みを紹介する。