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「ITは高尚なものではない」

企業のITマネージャは古い考えにしがみついてはいけないわけだ。

 そうだ。古い考えにとらわれると、新しい動きが理解しにくくなる。例えば、クラウドサービスの台頭により、ITインフラ重視の姿勢が改められるべきで、インフラ構築の重要度は薄れている。それよりも、モビリティ、ソーシャル、ビッグデータなど、インフラ上でどのようにデバイスやデータを活用するかということに焦点が移っている。古い考えに縛られていては、こうした動きへの対応が遅くなる。

 また、今後はユーザーインタフェースが大きく変わる可能性がある。例えば、BCI(Brain Computer Interface)。脳とコンピュータを直接結び付けて操作したり、情報をやり取りしたりできるようになるのは、遠い未来ではない。

 このように新たに台頭する技術を受け入れてその有効な活用法を見いだせるのが、優秀なIT専門家だ。過去に学んだことを捨て去る勇気が必要だ。

ITを有効活用するのは簡単ではない。どうしたらよいのか。

 まず、ITの影響力の大きさをきちんと把握することが大切だ。ITが普及するにつれて、その影響力は計り知れないほど大きくなっている。例えば、リーマンショック。CDO(Collateralized Debt Obligation、債務担保証券)が破綻して大規模なクラッシュにつながった。このCDOのように危険な証券化商品はITにより可能になったものだ。ITが生み出した複雑な金融商品が、結果として大不況を引き起こした。ITの影響力を示す一例といえるだろう。また、よく知られているように、Facebookが民主化運動を支えたというのも、ITの影響力の大きさを示した例だ。

 IT専門家は、このようなITの及ぼす多大な影響を考慮したうえで、その活用方法を見極める必要がある。ここで強調したいのは、ITは高尚なものではないということだ。ある調査では、世界全体では、歯ブラシの数よりも(ITの先進デバイスである)携帯電話の数の方が多いという。ある意味、携帯電話は地球を汚染しているといえるだろう。

 また、ITの利活用には危険が伴うことも認識する必要がある。例えば、AR(Augmented Reality、拡張現実)ソフトが普及し、スマートフォンを使って街中でリアルな対戦ゲームができるようになったとしよう。若者は熱中するかもしれないが、街中で暴れられたら周りの人々は迷惑だろう。なので、ITの専門家はその影響をきちんと把握したうえで、最新技術をバランスよく、社会の迷惑にならないように生かすことが求められる。

使いこなし方によって、ITは脅威になる。

 そうだ。そのため、専門家は自らのITフィロソフィーをしっかりと確立しなければならない。ITの利活用を考えるときに、倫理観を問われる局面があり得るからだ。「このITの使い方は社会にとって良くない」と思ったら、新システムを開発しないという決断を下す必要がある。

 これはITだけでなく、技術一般の問題だ。例えば、食技術。食技術の進歩は豊かな食生活をもたらす反面、環境や人体への悪影響を及ぼすこともあり得る。自動車もそうだ。自動車が大衆化することで社会が便利になる一方、大気汚染といった負の側面も生じる。このように技術が進歩して普及するにつれて、副作用も大きくなる。ITについてもその影響力が大きくなった今、IT専門家は正しく使う責任がある。