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中国遼寧省大連市

 成田空港から飛行機で約3時間、遼東半島の先端に位置する中国遼寧省大連市。かつてはロシアや日本の統治下に置かれた歴史を持つ港町だ。

 その大連が今、日本企業のコスト削減の切り札であるBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の本場に変貌を遂げつつある。日本企業から業務を委託された“事務工場”が林立し始めた。歴史的に日本とのかかわりが深く、現在でも日本語の教育が盛んな大連は、日本語入力や会話をこなす人材を確保しやすい特異な街である。

 本特集に登場するヤマト運輸や花王、ベネッセコーポレーション、太陽生命保険、ジェーシービー(JCB)の5社はいずれも、大連に間接業務や事務処理をBPOしている()。前ページの写真はベネッセなどから日本語のデータ入力業務を受託しているインフォデリバ(東京都港区)の大連センターの様子だ。インフォデリバが大連にBPO拠点を構えたのは2003年と早い。この事務工場では約1400人のオペレーターが私語を交わさず、日本から受信した手書きの申込書や伝票の画像を見ながら入力に励む。ベネッセなどに加えてソニーやニッセンホールディングスなど97社から受託している。

表●間接業務や事務処理業務を外部委託(BPO)したり、グループで集約したりしながらコスト削減している例
表●間接業務や事務処理業務を外部委託(BPO)したり、グループで集約したりしながらコスト削減している例
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 米IBMも2005年に大連にBPO拠点「グローバル・デリバリー・センター」を設立していたが、日本企業から積極的に受託するようになったのは2008年ごろからだ。大連センターの従業員数は3000人を超え、うち1000人が日本企業向けに働く。2009年にはヤマトと花王から経理業務の一部を受託した。競合や日系企業からの転職者を雇い入れ、日本語ができるスタッフを確保している。

学習意欲が旺盛な若者を安価に雇用

 大連の人件費は日本の4分の1とも5分の1ともいわれる。それにもかかわらず、日本企業の社員の多くが、BPO後は「業務の品質やスピードは日本とほとんど変わらない。業務によっては日本人よりむしろいい」(花王の三田慎一取締役執行役員)と高い評価を与えている。向上心やのみ込みの早さに驚いたと感心する声は少なくない。

 中国にBPOする狙いがコスト削減であることは言うまでもなく、安い労働力を活用してコストを30~50%減らすことはBPOの大前提になる。ヤマトや花王は3~5年で10億円規模のコスト削減を見込む。加えて、日本でもかけ声倒れに終わることが珍しくない業務改善活動をきちんと行い、品質向上や安定性、継承性を追い求めている。

 大連と伝票画像などを専用回線経由でやり取りする日本の社員にとっても、「コミュニケーションにタイムラグは感じられず、隣りの部屋に大連の人たちがいるのではないかと錯覚する」と中国との共同作業に支障は感じていないという。

 とはいえ、BPOで大きくコストを下げられるかどうかは、人件費の安さや人材の質ばかりではなく、いかに社内の業務を標準化し、集約できるかにもかかっている。スムーズに業務を移管できるかどうかで、準備期間の長さも大きく変わる。

シェアード組織もコスト削減力を問われる

 本特集では中国にBPOした事例だけでなく、国内におけるシェアードサービス拠点の動向も紹介する。日本の大企業では2005年ごろからシェアードサービスに取り組み、グループ各社や地方拠点の間接業務や事務処理を集約してきたところが多い。そしてその多くがサービスの外販にも乗り出してきた。だが、外販で売り上げを伸ばして利益を上げようという戦略は結果的に、コスト削減へのこだわりを鈍らせることになり、見直しを迫られた。

 コクヨと富士フイルムホールディングスは外販戦略を捨てて、“コスト削減センター”へと原点回帰した事例だ。対照的に帝人と小林製薬は発足当初から外販戦略を持たず業務改善に専念したことでノウハウを確立。毎年コストを減らしている事例である。

 次ページではまず大連の活気を感じさせる写真を解説しよう。そして次回は2009年にBPOを開始したヤマト運輸の取り組みを詳しく紹介する。