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 ITの重要性が増す一方で、情報システム構築プロジェクトの失敗が後を絶たない。ビジネスプロセス・アーキテクト協会(BPA-P協会)はプロジェクトの成功確率を上げるヒントを得るため、「プロジェクトのつぶやき」研究チームを立ち上げた。本連載は研究チームによる成果の一端を、エピソード形式で紹介している。

 前回(人事ローテーションから外れるシステム部員)では、情報システム部員をなかなか異動させることができない企業を紹介した。今回は、老舗のトラック販売会社A社の例を紹介しよう(登場人物はすべて仮名)。


 従業員600人の中堅企業であるA社の情報システム部門は、総勢12人。平均年齢は47歳と高く、この10年間、新人の補充は無い。多くの導入実績があるERP(統合基幹業務システム)パッケージを利用しているが、サポートは全面的にベンダーX社に依存している。情報システム部門は、それを前提にシステムの運用・維持を担当している状態である。

 情報システム部門は、導入しているERPパッケージの保守期限が近づいているため、製品のバージョンアップを検討している。同部門を率いる渡辺部長は、入社以来、情報システム部門一筋。オフコン時代からシステムを手掛けている。

 「まったく、ERPにせよOSにせよ、すぐに保守が切れてしまうから、たまったものじゃない。予算の申請も大変だし…」。渡辺部長はこう不満を漏らしながら、新しいバージョンのいくつかの新機能に魅力を感じていた。

 問題は、山本社長を説得できるかどうかだ。創業者の息子である山本社長は大学卒業後、大手商社に勤務していたが、5年前にA社に入社し、昨年から社長を務めている。情報システムには疎く、費用のことばかり気にかけている。

 「でも、とりあえず報告しておかないとな」。渡辺部長は社長室に向かった。

シーン1:A社社長室
「新機能にどのくらいの効果があるんだ?」

山本社長:(渡辺部長の報告を聞いて)つまり、いま使っているパッケージの保守が切れるから、バージョンアップしたい。そのためのコストがかかるというんだな?

渡辺部長:はい、必要なので仕方ありません。

山本社長:まったく、システム部はいつも金のかかることしか言ってこないな。新しい機能もあるというが、それは当社にとってどのくらい効果があるのか、何か資料はあるのか?

渡辺部長:いいえ、具体的な数値は用意していません。まず、早めにご相談したいと思ったものですから…

山本社長のホンネ
情報システム部はいつもコスト意識が弱いな。

山本社長:それでは、コストに見合うかどうか判断できないな。すぐに資料を用意してくれないか。

渡辺部長:分かりました。改めて、新製品の効果をまとめてきます。

渡辺部長のホンネ
単にERPの保守が切れるというだけの話じゃないか。
だけど、怒られるのはいつも情報システム部だ…

シーン2:A社情報システム部
「適当にやっておいてよ」

 社長室から戻ってきた渡辺部長に、部員の西田氏が声をかけた。西田氏も渡辺部長と同様、入社以来、システムの保守を担当している。といっても主な仕事は、ベンダーX社への依頼である。

西田部員:部長、社長との話し合いはどうでしたか? ERPのバージョンアップは認めてもらえましたか?

渡辺部長:いや、新機能の効果を知りたいと言うんだ。

西田部員:そうですか…何か、めんどくさいですね。

渡辺部長:いつも通り、X社に任せればいいだろう。バージョンアップの見積もりと、ついでに新機能の効果をまとめるよう、X社に言っておいてくれないか?

西田部員:分かりました。

渡辺部長:まあ、適当にやっておいてよ。