PR

 「I」と「II」を合わせて900ページに迫る本書は日本でもベストセラーになり、インターネットやテレビ、新聞、雑誌などあらゆるメディアで語られている。本欄に取り上げるにあたり、企業情報システムに関わる人が本書から何を学べるのか考えてみた。著者は巻頭で「本書はイノベーションの書」だと述べる。企業情報システムにもイノベーションは欠かせない。

 「21世紀という時代に価値を生み出す最良の方法は創造性と技術をつなぐことだとジョブズは理解していた」と著者は指摘する。創造性と技術をつなぐカギは何か。故スティーブ・ジョブズ氏の発言を引こう。

 「僕にとっては、デザインの意義を超えるものなんて考えられない。デザインというのは人工物の基礎となる魂のようなもの」。

 企業情報システムも人工物であり「基礎となる魂」はデザインだ。消費者向け製品はそうだろうが企業情報システムにデザインの出番はさほどない、操作画面くらいか、などと考えてはいけない。「他社がだめなのは、これをファッションだ、見た目の問題だと考えているところだ」とジョブズ氏に言われてしまう。「デザイン」を「設計」に置き換えて本書を読むとよいだろう。利用者が喜ぶ設計があってこそ、企業情報システムは価値を生み出す。挑戦的な設計があってこそ、システム開発者は力量を発揮できる。「すごいデザインは神業のエンジニアリングを引き出す」からだ。

 ジョブズ氏はアップル初期のパンフレットに「洗練を突き詰めると簡素になる」と記した。ジョブズ氏と組み数々のアップル製品を生み出した、デザイナーのジョナサン・アイブ氏は「本当にシンプルなものを作るためには、本当に深いところまで掘り下げなければならない」と語る。企業情報システムにおいても利用者の要望を聞く一方、あるべき姿を想像し考え抜いた設計をしていくと、シンプルな業務プロセスやデータ構造にまとまっていくことが知られている。

 本書に描かれるアップルのデザインワークはオーソドックスである。ブレインストーミングをしてプロトタイプを作る。それをいじりながらまた考える。「ジョブズ氏のようにはできない」と諦める前にやってみてはどうか。そもそもジョブズ氏は京都の庭園を観て、デザイン感覚を磨いたそうである。

スティーブ・ジョブズ I

スティーブ・ジョブズ I
ウォルター・アイザックソン著
井口 耕二訳
講談社発行
1995円(税込)