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◆今回の注目NEWS◆

一体改革、年度内法案提出へ揺るぎなくやる=野田首相
  (asahi.com、12月16日)


◆このNEWSのツボ◆

 野田総理が消費税増税に対して、非常に前向きである。確かに欧州などの財政逼迫(ひっぱく)が世界経済に暗い大きな影を落としている状況で、財政をなんとかしたいとの思いは理解できる。なにせ、日本の債務残高は、絶対額はもとよりGDP(国内総生産)との比率で見ても、「危機」といわれるイタリアをはるかにしのぐ(イタリアはGDPの約1.2倍、日本は同約2倍)。

 この税と社会保障の一体改革を実施するに当たって、番号制度が重要とされている。単に消費税率を上げただけでは、例えば生活保護を受けている世帯や年金生活世帯、介護保険受給世帯などに、相対的に重い負担がかかることになる。そこで税と社会保障を共通の番号で結び、消費税を上げる代わりに一定額を社会保障で還元するなどの仕組みを柔軟に構築できるようしたいとの狙いがあるようだ。

 現状では、「消えた5000万件の年金データ」に象徴されるように、社会保障のシステムも税のシステムもそれぞれが独立して構築され、しかも「完全に国民を把握・捕捉」できているわけでもない。つまり「絶対的に正しい国民マスター」はどこにも存在しない。このような状況で、この人の税がいくらだから、この人の生活保護をこれだけ調整して---などという作業ができるわけもない。そこで、共通の「番号」を改めて全納税者と社会保障対象者(国民個人および法人、外国人登録者)に付与して、それをベースに税と社会保障の一体改革を進めていこうということである。

 実は筆者も先日、鹿児島で開催された番号制度のシンポジウムに参加した。そこで実は、かなり心配になった。「何を」「どのようなシステムとして作るか」という具体的な点が、甚だ曖昧なままだったからである。

 あらかじめ立場をはっきりさせておくことが重要だと思うので明言すれば、筆者は「番号制度」あるいは「国民ID」の導入には賛成である。プライバシーの漏えいや国家による情報管理を心配する向きがあるのは承知している。もちろん、そうした事態に陥らないよう最善の措置を取るべきであることは言うまでもないが、こういうリスクよりも、そもそも「国民が適切に把握されていない」コストのほうがはるかに大きいと考えるからである。

 「消えた年金データ」「完全に捕捉されない納税客体」「亡くなったはずの人が年金を受給している」といった事態で、どれだけの財政資源が無駄になり、どれだけの不公平が発生しているか。番号制度の導入への心配は理解できないわけではないが、かといって、こういう財政損失は「やむを得ない」とあきらめるべきとは思わない。いまや税も社会保障、戸籍、法人登記も国のほとんどの行政機能はシステム化されており、そこで適切に「データ突合とマスター管理」が行われれば、数千億・数兆円の単位で財政資源ロスが回避できるはずである。

 ただ、こういう立場の筆者も、今の議論は心配である。税と社会保障をつなぐ「番号」を作って、一体改革を推進できるようにするというのは理解できる。しかし、現状は、あまりに「色々なことができる」と言いすぎではないか。また、そのベースに(失敗作である?)住民基本台帳番号(住民票コード)を使うとも言われているが、住基システムも税のシステムや年金システムと同様に完全なものではない。

 つまり、作るべき番号システムは、住基システムを含むさまざまな行政情報システムからのデータ突合を繰り返しながら発展していくデータベースであるべきで、「何かをベースに」というものではないように思える。また、最初の段階では、どう考えても「不完全」なものになるはずである。それを、あたかも最初から完全な番号システムができるかのように喧伝(けんでん)するのも適切とは思われない。

 繰り返しになるが、住基番号や公的個人認証の時のように「決まっちゃったから、予算が取れたから」やるというような失敗と壮大な無駄遣いは避けてほしい。すでに情報連携基盤だけで何千億円もかかるという話も聞こえてくるが、うまく作り上げれば日本の国家インフラにもなる重要なシステムなのだから、過去のしがらみにとらわれることなく、具体的かつ緻密な制度とシステムの設計が行われることが重要であろう。

安延 申(やすのべ・しん)
フューチャーアーキテクト 取締役 事業提携担当、
スタンフォード日本センター理事
安延申


通商産業省(現 経済産業省)に勤務後、コンサルティング会社ヤス・クリエイトを興す。現在はフューチャーアーキテクト取締役 事業提携担当、スタンフォード日本センター理事など、政策支援から経営やIT戦略のコンサルティングまで幅広い領域で活動する。