ジュニア社員にはまずプログラミング、そして感動する心を育てる
ジュニア社員には、左脳・右脳両方の基礎的な力を付ける意味で、次の2つの能力を育成したい。
(1)モノを構造的に分析し、構築していく能力(左脳)
(2)感動したり、思いやったりする心を育む能力(右脳)
要求開発とプロセス分析力の習得は、(1)モノを構造的に分析し、プロセスを構築していく能力を鍛えていくことに尽きる。そのためには、入社後2年間は、徹底してプログラミング業務に取り組むことが必要であり、一番の近道である。プログラミング業務は、構造的にプログラムを構築していく作業であり、また、作業の過程で行うデバッグ業務も構造的な考え方を鍛える格好の演習になっている。
東京海上日動システムズでは、新人から3年目くらいまでは、徹底してプログラミング業務を行うことで教育している。また、東京海上日動のIT企画部に配属される新人も同様に、東京海上日動システムズにて徹底したプログラミング業務を実践している。ICT部門ではなくビジネスサイドに配置される社員でも、できればこの2年程度のプログラミング業務は必須のカリキュラムにできると理想的である。
加えて、イノベーションを推進する情熱を持つためには、(2)感動したり、思いやったりする心を鍛えておく必要がある。そのためには、休日にスポーツやコミュニティ活動にあてる時間をとることが大事である。最悪なのは、仕事人間になって朝から晩まで会社にいるような過ごし方である。これでは、右脳がまったく活性化されずに、創造する能力が退化してしまう。ワークとライフの調和が重要であり、ライフが充実することで創造性が磨かれる。
東京海上日動システムズでは、コミュニティ活動を経営が支援しており、社内に約300のコミュニティが存在し、自由に活動している。このコミュニティのほとんどが部門をまたがったメンバーで構成されており、組織の縦割りをぶち壊す意味でも効果を発揮している。技術的なことに取り組んでいるチームもあれば、いいかげんなチームもある。例えばマインドマップをみんなで研究しようとか、最近のAndroidやiPhoneで何かアプリケーションを作ってみようとか、みんなでラーメンを食べに行こうとか、社長室で飲もう会とかもある。テーマは何でもよく、仕事と関係なくても、自分たちで発想して、自分たちで企画して、自分たちで実践するという体験が重要なのである。
この自主的な活動を活性化するためには、経営が活動をコミットする必要がある。私たちは、コミットを明らかにするために、就業時間中でのコミュニティ活動を推奨するとともに、チームから提案を受けたときには、黙って全件対応することを誓っている。
中堅社員には、OJTとOffJTで能力アップ
中堅社員になれば、イノベーションを企画・実践する役割が期待される。したがって、すぐに役に立つスキームの学習や、他業界でのイノベーション事例に触れる経験が必要である。そこにはOffJT(Off the Job Training)とOJT(On the Job Training)を組み合わせたアプローチが有効である。
まず、OffJTでの学習について述べる。ここでは、以下の3つの取り組みが必須である。
(1)多くの分析スキームを学習する
(2)ケーススタディで他業界での好事例を学習する
(3)他業界の人々とのコミュニティ活動を通じて、多くの人々の知見や経験を学習する
まず、(1)多くの分析スキームを学習することから説明する。イノベーションを企画するためには、ビジネスプロセスを分析し、組み立て直していく技術力が必要になる。その技術力の基礎を成す分析手法を学ぶ必要がある。例えば、要求工学や要求開発という分析のための方法論、CRM(顧客関係管理)、AISAS理論などの経営戦略手法、モデリング、SOA(サービス指向アーキテクチャー)などのビジネスプロセス分析の方法論などである。
企画力を身に付けるためには、やはり基礎的な方法論をベースにした思考が重要である。東京海上日動システムズでは、アメリカやインドでの研修カリキュラムに参加して、世界の最新技術を学んでいる。また、国内でも知見のある方を招いて実験プロジェクトなどを立ち上げ、新しい手法を積極的に取り入れている。