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 若手メンバーが雑誌の寄稿記事などを書く際、筆者はチェックを頼まれることが多い。原稿中に使われている用語を精査していると、思いがけない固定観念に気付くことがある。その一つ「ユーザー部門」の話をしてみたい。そこから、ITエンジニアの特徴的な世界観が見え隠れする。

 先日チェックした原稿は、システム化方針を決める前段階の業務分析を解説するものだった。冒頭に「システム発注側の体制は大きく情報システム部門とユーザー部門に分かれる」とあった。一読すると問題なさそうだが、これはおかしいと指摘した。「ユーザー」とは何のことか不明だからだ。設計・実装工程であれば、開発中のシステムのユーザー(利用者)と考えて構わないが、まだシステムを作るかどうかすら分からない段階では、誰が何のユーザーなのか分からない。

 これに対して、「新しいシステムのユーザーかどうかは分からないが、情報システム部門が管轄しているシステムを使っているからユーザーでいい」との反論が出てきた。しかし、いまどき社内システムを一切使っていない部門はないので、この理屈だと、情報システム部門以外はすべてユーザー部門になってしまう。

 この「情報システム部門以外はすべてユーザー部門」というのは、案外、実際の使われ方に近いのではないだろうか。そして、この業界に特徴的なものであるように思える。というのは、より大きな枠組みの中にも同じ構造が見られるからだ。

 「ユーザー企業」という用語があるが、これはシステム開発会社が構築する情報システムを利用する企業という意味である。そこには上記のユーザー部門と同じ構造がある。ユーザー企業とは、システム開発会社以外のすべての企業のことを指している。

 ユーザーという概念は情報システムに限ったものではない。車にも電話にも電気にもユーザーはいて、そしてどの企業でも使っている。世の中いろいろな製品・サービスのユーザー企業だらけになっていそうなものだが、ネット上で「ユーザー企業」を検索してみると、出てくるのは情報システムのユーザー企業ばかりだ。

 我々情報システムに関わるエンジニアは、ユーザー部門やユーザー企業という呼び方で、自分たちの周りに線を引いてしまっているのではないだろうか。情報システム部門と他の部門、システム開発会社と他の会社を分ける線引きである。システムを構築するコンピュータ専門集団と、ただシステムを使う素人のユーザー側という切り分けだ。自分たち以外全部を表現する用語は、自己中心的な世界観の表れではないかと思ってしまう。

 ユーザー企業とよく対比して使われる開発ベンダーという用語も相当おかしい。ベンダーとは本来、販売・供給する人の意味である。ハードウエアベンダーなら、ハードウエアを販売・供給する業者ということで意味が通る。しかし、開発ベンダーは、開発というものを販売・供給する業者という意味になって変だ。ベンダーという単語を業者という意味で誤用しているだけかもしれないが、こちらも「作って提供する側と使う側」に分ける意識が隠れているのではないか。

 企業情報システムを作るのであれば、本来、将来ユーザーとなる人たちこそが施主(開発主体)であり、オーナーのはずである。オーナー部門をユーザー部門と呼ぶのは主客逆転してしまっている。発注側がオーナーである以上、開発に協力する会社は、開発ベンダーではなく、開発パートナーという位置づけになるはずだ。

 用語の多くは、自然発生的に生まれ定着するものなので、使い方がおかしいと指摘しても仕方がないと思う。ただ、そうした用語によって、我々自身が意識の中で線引きをし、その構図に縛られてしまうことがないように気を付けたい。

林 浩一(はやし こういち)
ピースミール・テクノロジー株式会社 代表取締役社長。ウルシステムズ ディレクターを兼務。富士ゼロックス、外資系データベースベンダーを経て現職。オブジェクト指向、XMLデータベース、SOA(Service Oriented Architecture)などに知見を持つITアーキテクトとして、企業への革新的IT導入に取り組む。現在、企業や公共機関のシステム発注側支援コンサルティングに注力