日立製作所が情報技術と制御技術を融合させる「社会イノベーション事業」に本腰を入れている。グループ各社の技術力を結集し、電力や交通システム、上下水道など複数のインフラをIT(情報技術)で結び付けることによって、他のITベンダーや設備メーカーと差異化し、世界を舞台に社会インフラ事業を伸ばす構えだ。日立ならではの強みと課題を追った。
「発電や水、交通システムを個別に考えるのではなく、総合的に計画していく。そのためのデータを、ITを使ってモニタリング(監視)して整理していく必要がある」――。
2011年10月18日、日立製作所の中西宏明社長は仙台市の国際会議場で、数百人の聴衆を前に熱弁を振るっていた(写真1)。テーマは「復興そして未来づくりへ」。東北にある「知を集積」することで新しい産業を創出し、さらに産業の付加価値を高めて国際競争力をつける。それによって、震災からの復興に伴う様々な課題を解決できると力説した。中でも強調したのが、ITの重要性だった。
制御とITを1社で抱える
冒頭の言葉こそがまさに、日立が成長のキーワードとして掲げる「社会イノベーション事業」の本質だ。日立は発電や交通など、社会インフラ事業に強みを持つ。それを支える、モノを動かす「制御技術」と、データをやり取りする「情報技術」つまりITを融合させることで、新たなビジネスを生み出そうという概念だ。
世界を見渡しても、日立のように制御とITを1社で抱える企業は珍しい(図1)。米ゼネラル・エレクトリック(GE)や独シーメンスなどの重電メーカーは、制御に強みを持つが、IT領域での存在感は小さい。一方で米IBMや富士通は、ITにほぼ特化している。制御とITの二つを融合させて相乗効果を引き出し、激化する社会インフラ事業の争奪戦で優位に立つ。これが、日立の描く青写真だ。