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笑われたモノが生き残った

 米国の風刺画家の話をしましょう。彼はもうこの世にはいないのですが…。私のお気に入りの風刺画は、「破壊」をテーマにしたものです。2匹の恐竜が向かい合って立っていました。そのうちの一匹は小さな哺乳類、確かネズミだったと思いますが、それを見て「おまえに何ができる」と笑っているんです。もう一匹の恐竜は空を見上げています。隕石が地球に降ってくるからです。この風刺画が意味するところは、恐竜が笑っていたちっぽけな哺乳類が最終的には地上で生き残ったということです。

 遂行型の人にとって、破壊型の人たちは「クレイジー」ということになります。スティーブ・ジョブズ氏がアップルに戻ってきたときの広告をご存知ですか。「Here’s to the crazy ones」というものです。もしかすると日本では放映されていなかったかもしれませんね。ここで登場する人たちは、ものごとを違った視点で見ている人たちです。9時から5時まで働いている人たちとは相いれないでしょうね。

 米国では、彼らを表現する言葉があります。飼いならされていない野生の馬という意味を持つ「maverick」です。日本の文化では彼らを支援することはあるでしょうか。少なくとも、私が日本にいたときには支援していませんでしたね。解雇されるか締め出されていました。米国では、少なくともシリコンバレーでは、maverickは不確実性を快適に思える人、破壊する人、ビジネスモデルを探求する人ということで認められています。経験上からも、私はこんな人たちが大好きです。

maverickを認める、認めないが、シリコンバレーと他の地域との違いですね。

 そうです。ですから、スタートアップ企業は、持続的なイノベーションを知っているマネージャーを連れてくればいい組織ではないのです。遂行型の仕事をする職業の人に、創造的であることを求めるようなものです。

 大企業と言うのは、往々にして破壊的な人を排除しがちです。なぜなら破壊的な人たちは遂行には向かなくて、新しい事業を管理することもできないので、管理するためのマネージャーを外部から招くことになります。破壊的な彼らは新しいものを作ろうとするのですが、目の前のビジネスをしたいマネージャーはそれを望みません。結局、クレイジーな人たちは組織を去ってしまうのです。ですから、スタートアップ企業で起こっていることを理解していないと、イノベーションが何であるかも理解できないのです。

日本に居心地が悪ければ、シリコンバレーに来ればいい

Lean Launchpadの講義をビデオ配信すると聞きました。世界中どこにいても講義が受けられ、専門家がソーシャルメディアでつながるとすれば、交流の場としてのシリコンバレーの重要性が下がるとは考えられませんか。

 ソーシャルメディアの重要性は認めますが、物理的な存在感のようなものはまだ求められると思います。確かに、Facebookは友だちの定義を変えましたが、私たちの脳内の化学の働きは、バーチャルの世界にはない人間のつながりや、ブレーンストーミングを求めるのだろうと考えられます。ネットの世界によって情報やコンテンツへのアクセスはできるようになりましたが、私は物理的な集合体は残るだろうと信じています。

 ですから、ソーシャルメディアの台頭を悪いことだと考えるどころか、すばらしいと思っているのです。シリコンバレーを置き換えるかとたずねられたら、「全然そんなことはない」と答えます。むしろ結果は逆で、これまでは考えたこともなかった中国やアフリカの起業家精神などにも想いを馳せるようになるのかもしれませんね。あこがれの地であるシリコンバレーにも行きたくなるのでしょう。足を運んでまた地元に帰るわけです。

 私は、多くの人がシリコンバレーに訪れ続けると信じています。「失敗は経験である」という文化は、米国ならではのもので、カウボーイ文化を源流とし、クリント・イーストウッド氏がいう「OK、もう一度やってみよう」という文化なのです。ほかにこんな場所があるでしょうか。

 私はこれまでの半生で、個人的に5000万ドルを失いました。国によっては牢屋に入っていたかもしれませんが、シリコンバレーでは問題になりません。失敗したとしても、ここでは「Great!」(素晴らしい)ということになります。経験を積んで、いくばくかのお金を得る。私は、生きた証言者と言えるでしょう。

 シリコンバレーが特別な場所とお話ししましたが、読者の皆さんのためにも大事なことなので主張したいことがあります。決してシリコンバレーの人が日本の人たちよりも頭がいいとわけではないのです。

なぜ、そのようにお考えなのですか。

 私は、何度も日本に旅行しました。科学者、研究者、起業家は皆さん頭がよいと思います。一方、シリコンバレーには自分たちを解き放つ文化があります。伝統ある文化を打倒しようと考えることを許す文化があるのです。だからといって、それは善し悪しを言っているのではありません。経験の違いだけです。

 日本の皆さんも、ここに住んでみてください。私たちに10年ください。きっとクリエイティブな人に変えてみせますよ。すべての人が求めるわけではないと思いますが、もしあなたが日本の中でmaverickだったら、シリコンバレーに来ればいいんです。日本に合わないなと思ったら、米国に5年だけでも来て私たちと一緒にスタートアップ企業を始めてください。それが私の理論です。