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 起業家のバイブルと言われる「アントレプレナーの教科書」(原題は「The Four Steps to the Epiphany」)や、最新刊「The Startup Owner's Manual」の著者として知られるスティーブ・ブランク氏(写真1)。自らも起業経験を持ち、現在はスタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレイ校などで起業をテーマにした講義をしている。最近は、全米科学財団(NSF)と共同で、彼の起業ノウハウをベースにした、科学領域の研究の商用化に取り組んでいる。本インタビューでは、起業家育成の取り組みを始めた背景や大企業とスタートアップの違い、シリコンバレー固有の文化などに関して聞いた。

(聞き手は菊池 隆裕=ITpro


「起業を教える」というテーマに取り組むようになった背景を教えてください。

写真1●スティーブ・ブランク氏
写真1●スティーブ・ブランク氏

 私は日本の企業の歴史を知らないので、欧米の企業の歴史に限った話をしましょう。欧米では、最初の近代企業と言えば1600年くらいに英国で興された東インド会社でした。そこからマネジメントは進化し、投資も進化し、取締役会も進化しました。

 それから300年が経ち、ハーバード大学の教授が「ビジネスには300年の歴史があるけど、それを教える場所がない」と考えました。当時の米国は農業から産業依存経済への移行が進みつつあり、企業を運営するマネージャーが求められていました。企業を始めることではなく、運営することが求められていたのです。彼が1908年に興した教育プログラムは、MBA(経営学修士)と呼ばれています。これが米国や欧州、日本のほかの大学にも伝わり、会計処理や金融、雇用、組織管理を良く知るマネージャーを輩出するようになりました。

 そのタイミングは米国にとって最善でした。なぜなら、そのころからビジネスは、地域に根差したものから国全域に広がり、第2次世界大戦後には国際化が進んだからです。マネージャーたちは、多くの学校で訓練を受けるようになりました。これは、既存の企業を管理する方法です。さかのぼりすぎたでしょうか。

興味深いお話です。続けて教えていただけますか。

 シリコンバレーでベンチャー・キャピタルが始まり、投資家は起業家とペアを組むようになりましたが、投資家というのはほとんどが金融かビジネススクールの卒業生でした。ですから、彼らが知っていることは大企業を管理することであって、それを起業家に教えたのです。いわく「大企業はビジネスプランを書いているのだから、スタートアップもビジネスプランを書きなさい。大企業は販売担当とマーケティング担当の副社長を設けているから、あなたも設けなさい」と。このような背景があるので、シリコンバレーではスタートアップ企業は大企業の縮小版だと思われてきたのです。暗黙の前提でした。

 しかし、40年が経ち、それが間違いであることが分かりました。私たちは間違っていたのです。大企業は既に知られたビジネスモデルを遂行する存在ですが、私の定義では、スタートアップ企業はビジネスモデルを探す存在です。つまり、繰り返しと拡張が可能なビジネスモデルを探すために設けられた一時的な組織と言えるのです。ビジネスモデルが見つかって初めて、大企業になることができるのです。

 そこで考えました。「大企業が求める実行のためのスキルはMBAのコースで習得できる。それでは、スタートアップが必要な“ビジネスモデルの探求”はどこで教えてくれるのでしょうか。このような教育コースはこれまで見たこともありません。それは、大企業の管理者向けの教育と起業家向けの教育が違うとは、だれも考えてこなかったからです。