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 日本IBMに約74億円の賠償命令――。4年間にわたりスルガ銀行と日本IBMの間で争われていた裁判で、ついに第一審判決が出た。関係者のみならず、ITベンダー、ユーザー企業それぞれの立場の人々に衝撃を与えた。

 第一審では、勘定系システムの開発プロジェクトが失敗したことの損害賠償として、スルガ銀が日本IBMに115億8000万円を求め、その3分の2ほどが認められた。スルガ銀は「本判決は、当社の被った実損害を全面的に認容しており、妥当な判断である」と評価している。これに対し日本IBMは、判決の翌日に控訴したことを明らかにした。同社は「スルガ銀行に対する義務を全て果たしている」と改めて主張している。

 裁判に至るまでの経緯を簡単に振り返っておこう。スルガ銀は勘定系の次期システムとして、IBMのパッケージ「NEFSS/Corebank」の導入を決め、2004年9月に開発プロジェクトがスタートした。だが、要件定義を3回繰り返すなどシステム開発は難航。2008年1月の稼働予定を延期した。日本IBMはスコープの大幅な縮小や追加費用を要求したが折り合わず、2007年5月にスルガ銀はプロジェクトの中止を決断した。そして2008年3月、スルガ銀は日本IBMに対し、開発プロジェクトの失敗により生じた損失と逸失利益についての損害賠償請求訴訟を起こした。

 争点の一つは、2005年9月に両社が交わした最終合意書の法的拘束力だった。開発費89億7080万円、稼働時期2008年1月と明記された最終合意書に基づき、スルガ銀は請負契約に対する日本IBMの債務不履行を主張。一方の日本IBMは、開発フェーズごとの個別契約は履行していると主張していた。

 裁判の終盤では、プロジェクトで作成した要件定義書の再利用性が争われた。プロジェクトでは要件定義が3回も繰り返されており、その成果物である要件定義書に価値(再利用性)があるかないかで、損害賠償額が大きく変わる。スルガ銀は、要件定義の内容は別のパッケージで再利用できるものではなく、かつ不完全だったと主張。これに対し日本IBMは、要件定義は別のパッケージでも再利用可能であり、無駄にはならないと主張していた。

 昨年7月4日の口頭弁論では、両社の代理人が裁判長に、和解案を検討する場合の進め方について質問する場面があり、両社は「和解」の道も模索していたようだ。しかし、結果的には裁判を続行することになり、さらには控訴審へと進む。この裁判、決着が付くのはいつになるのだろうか。

プロジェクト破綻までの経緯と裁判の様子

スルガ銀がIBMを提訴、債務不履行による損害など111億円超を賠償請求

スルガ銀行と日本IBMのシステム開発失敗を巡る裁判がスタート

スルガ銀-IBM裁判の訴状内容が判明、要件定義を3回繰り返す

「改変を強要された」、スルガ銀-IBM裁判で日本IBM副会長

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法律面からスルガ銀-IBM裁判を理解する

 スルガ銀-IBM裁判のように、システム開発を巡るトラブルが訴訟に発展するケースは珍しくない。こうしたリスクに対して、ユーザー企業もITベンダーもきちんと備えをしておく必要がある。連載『松島淳也のIT法務ライブラリ』から、システム開発トラブルに関する解説記事を紹介する。スルガ銀-IBM裁判を法律面から理解するのにも役に立つ。著者はエンジニア出身の弁護士だ。

紛争に発展しやすいオーダーメイドのシステム開発

裁判所は契約書が存在しない契約の成立に消極的

個別契約で上流工程の不払いリスクを回避する

契約締結上の過失の理論でのベンダー救済は困難

ベンダーが開発を負担するシステム範囲の認定方法

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完成前の契約解除-ベンダーとユーザーの双方に義務

完成後の契約解除-瑕疵担保責任に基づく解除

ベンダーの追加報酬請求権が認められる条件

制度の特徴を考慮して紛争解決手段を選択する