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 中国社会の変化はすさまじい。1976年まで文化大革命をやっていたと思ったら、翌々年の78年には改革開放が始まる。92年の鄧小平の南方講話で資本主義にGOサインがでて、97年には香港を取り込み、2001年にはWTOに加盟し国際社会にデビューする。そして、2008年の北京オリンピック、2010年の上海万博。その間、2003年、08年には、日本を追い抜き立て続けに有人衛星の神舟5号、神舟7号の飛行を成功させる。ギアが入るとすさまじい勢いで変化し成長するのが中国のようだ。

 ビジネスにおいても、それは変わらない。「今回のミーティングは、初顔合わせなので、まずは仲良くなって、次回までに具体的なことを詰めていきましょう」とは日本人のセリフ。「赤の他人」から面談を重ねて間を詰めていくスタイルだ。面談の1回目で何かを決めることはなく、2回目でお互いの課題を整理し、3回目でほんの少しの決め事をする。会った回数が重要で、そこでやる気が確認できれば、4回目ぐらいで物事が締結する。逆に、回数を重ねても話がまとまりそうにないと、間を開けてフェードアウトさせてしまう。決して、途中で明確に断ることはしない。いつでも話は再開できるというオプションを残すのだ。

 この「回数を重ねる式」の日本人の儀式が中国人を含む外国人には理解できないようだ。私が米系外資企業の役員をやっていた時、心配になった米国人役員から「ミスターヤマダ、こんなことでこの話は本当にまとまるのだろうか」と何度も質問されたことがある。「最初はこの程度にして、話を詰めてしまわない方がいいでしょう。これ以上、話を進めると、それは相手を押し倒すことにもなりかねず、それだけで話が壊れてしまいます」「回数を重ねることが大切です」と私は説明した。同じ説明を今は中国人のビジネスパートナーにしている。

 一方、中国人は、「ギア」が入るとビジネスの進行が突然早くなる。中国人トップが、自らが采配をふるってどんどん話を進めていくのだ。一度決意をすると、毎日、毎日、その案件について考え、あらゆる指示を部下に出して、ことが早く進むように激を飛ばす。ぐずぐずしているのをみるとイライラするらしい。

 こんな調子だから、話し合いは大変だ。2回目の商談あたりで、中国側が俄然本気を出し、日本側がタジタジになるというケースをよくみかける。最初は「相手は本気か」「進めるにはかなり時間はかかるぞ」とのんきに構えているのは日本側だけで、2回目の商談でもトップが出てきたら、それはもう、すべての事をそこで決めてしまおうということなのである。

 その、中国の猛烈な勢いを削いでしまうのは、いつも日本側だ。一歩ずつ階段を着実に登るスタイルを日本側は崩さない。調整、調整、また調整で時間がかかる。本当は、調整に時間がかかっているのではない。調整という名の間を入れながら、自分たちのペースを守ろうとしているのだ。

 もちろん、日本スタイルにもいい面がある。じっくり進むことで組織内に情報と納得感を浸透させることができるのである。こうして、「内々ではあまり説明が要らない」「チームの中での食い違いがない」という環境を作り上げるのだ。

 中国スタイルでは、トップが強引に推し進めることがままある。当然のことながら、トップと他のメンバーの間に認識の差ができる。だから、現場で実行する段階になって、まったく現場が納得していなかった、ということがしばしば発生する。こんな時は、現場で何とかしようとしてもムダだ。トップに戻し、現場に指示してもらうしかない。

 スタイルの差ということでもう一つ気になるのが、いわゆる社交辞令である。思ってもいないことも、日本側は「友好の証」として発言する。中国側も、様々なことを大袈裟に言う傾向があるが、それは誇張して表現しているだけで、やる気がないわけではない。ところが、日本側は明らかにやる気のないことも平気で言ってしまったりする。日本では、それが礼儀だからだろう。

 できもしないことを言ってしまっても、面談の回数を重ねていく中で、フェードアウトさせてしまえばいいと、日本側は思う。しかし、中国人は必要なことは面談の回数を経ても覚えている。それが約束としてとらえられることも多い。言った、言わないということにもなるのだ。だから、議事録は必ず残しておかねばならない。

 日中間のスピード感の違いは、人間関係をつくる場面にも表れる。中国人は、必要であれば急接近し人間関係をつくろうとする。日本のように回数を重ねるのではなく、1回目でも突っ込んだ話しをし、個人間の関係と信頼を築こうとするのだ。中国では、最初は誰でも「外人(ワイレン:知らない人)」だが、それが顔見知りになり、最後は「自己人(ジーズーレン:知った仲)」になる。この「自己人」にならないとなかなか信頼をもって仕事を一緒に進めることができない。だから、食事や何気ない会話を通じて個人間のつながりをつくろうとする。

 これは、日本人にとってはいささか厄介なことである。日本人はどうしても自分を「組織の中の一員」と位置づけてしまう。ましてやビジネスは団体戦である。まずは組織間の関係性を築く。個人間のつながりができることももちろんあるが、それはあくまで組織間の関係性があればこそのもの。つまり、日中では関係性構築の順番が逆になっているのである。

 組織の前に個人がある。これが中国式スタイル。個人と個人が信頼し、その背景にある組織が共同で仕事を進める。しかし、日本人からすれば、社長でもない個人が組織を代表するなど、責任が負えないからとてもできない。どうしても「社に持ち帰り議論させてください」となり、相手を失望させることになるのだ。

 中国異質論を唱えるビジネス書が多い。どうも中国とはビジネスが苦手という日本人も多いようだ。しかし、多くの中国人もそんな日本人を苦手と思っている。異質な日本人のビジネススタイルに戸惑うのである。どちらが正しいということではない。まず、双方の違いを認め、相手の文化、背景を理解すること。これ抜きで、ビジネスの成功はない。

本稿は、中国ビジネス専門メルマガ『ChiBiz Inside』(隔週刊)で配信したものです。ChiBiz Insideのお申し込み(無料)はこちらから。
山田 太郎(やまだ・たろう)
株式会社ユアロップ 代表取締役社長
1967年生まれ。慶応義塾大学 経済学部経済学科卒。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)などを経て、2000年にネクステック株式会社(2005年に東証マザース上場)設立、200以上の企業の業務改革やIT導入プロジェクトを指揮する。2011年株式会社ユアロップの代表取締役に就任、日本の技術系企業の海外進出を支援するサービスを展開。日中間を往復する傍ら清華大学や北京航空航天大学、東京大学、早稲田大学で教鞭をとる。本記事を連載している、中国のビジネスの今を伝えるメールマガジン『ChiBiz Inside』(発行:日経BPコンサルティング)では編集長を務める。