企業経営者がITの価値を再認識し始めている。経営環境の激変に直面し、新規分野の開拓やグローバル展開を急ぐ中で、ビジネスを高度化する道具としてのITの戦略的価値に気付いたからだ。今、経営者はITや情報システム部門に何を求めているのか。日経コンピュータの「編集長インタビュー」に登場した著名企業の経営者17 人の証言から、同誌編集長が全てのIT 担当者のために解説する。
日経コンピュータは2012年1月19日号で創刊800号を迎えた。この30年以上にわたる日経コンピュータ、そしてITの長い歴史の中でも、2012年は画期的な年となるはずだ。クラウドやスマートフォン/タブレット端末、ビッグデータなど最近の大きな技術革新が、情報システムの在り方を根本的に変えるからだ。そして、既存のビジネスを変革し、新たなビジネス機会を生み出すに違いない。
日本企業は2011年に、東日本大震災や原発事故、欧州債務危機、異常な円高、そして日本のTPP(環太平洋経済連携協定)交渉への参加など、様々な困難や事業環境の激変に直面してきた。そうした中、多くの企業の経営者が、新規市場の開拓やグローバル化などの経営課題に立ち向かう上でのツールとして、ITの価値を再認識しつつある。
経営におけるITの戦略性高まる
編集長である私は、2011年に日経コンピュータとしてこれまでにない試みを行った。それは「編集長インタビュー」のコラムに、数多くのユーザー企業の経営トップに登場してもらうことだ。大手企業を中心に総勢17人の社長や頭取、会長から、「経営とIT」について聞いた。そこから浮き彫りになったのは、ITを活用してビジネスを革新することを真剣に模索する経営者の姿だ。
もちろん経営者によってITに対する認識にはバラツキがある。ただし、以前盛んに喧伝された“IT万能論”や、その反動である“IT Doesn't Matter(ITは経営に重要ではない)”といった浅薄な議論に惑わされる経営トップはもはやいない。例えば「アナログ人間」を自認するファミリーマートの上田準二社長は、商社から転じた後、コンビニにおけるシステムの意義を把握し、利益につながるIT投資を徹底追求するようになったとする。
特筆すべきは、製造業の経営トップのITに対する期待が高まっていることだ。もともと金融機関や小売り・サービス業は、IT投資に熱心だった。システムによって商品やサービスを差異化できるからだ。それがここに来て、製造業でもビジネスモデルの変革やグローバル展開において、クラウドなどの活用が差異化要因になりつつある。今や産業全般でITの戦略的価値は高まっており、経営者の関心も近年になく高い。