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 昔、ある生徒から尋ねられたことがある。「環境問題でもお金儲けはできるのでしょうか?」。現在は、環境ビジネスが盛んで、時には環境問題のガセネタに乗って大金が動くこともあるが、質問された当時は環境問題に取り組むことはお金に一番縁遠いと思われていたから、なかなかきつい質問であった。しかし、実のところ環境思想を学びながら、いくつものビジネスチャンスがあることに気がついていた。

 事業として、単一の環境問題に対応したテクノセントリズム的な政策もあるが、それよりもさらに大きな構想の中からの政策が新しい産業を興し、新規雇用も獲得すると考えられる。捕鯨問題からは海洋牧場の可能性が、環境問題の根幹からはエネルギーと食料にアプローチができるだろう。特にエコシステムの発想は大いにビジネスになる。勉強さえしておけば、それほどの資金を必要としないもの、誰でも手軽にやれると思ったものが思い浮かんだのである。ヒントとなったのは、小さな頃に読んだ動物学者ローレンツの『ソロモンの指輪』である。

 著者コンラート・ローレンツはオーストリア生まれの動物行動学者で、ケーニヒスベルク、ミュンスターの各大学教授、マックス・プランク行動生理学研究所、オーストリア科学アカデミーの動物社会科学研究所長を歴任した人物であり、比較行動学の創始者とされている。特に刷り込みの研究で名高い。『文明化した人間の八つの大罪』などは環境思想の観点からも大いに参考になったし、人間を動物の拡大版として捉えている『攻撃ー悪の自然詩』は、環境のみならず戦争と戦略の分析においても活用できる内容であった。もともと犬が好きであったから『人イヌに会う』も面白かったが、一連の著書で最初に出会ったのは『ソロモンの指輪』であった。

 伝説のイスラエルの王ソロモンは、動物と会話できる指輪をもっていたという伝説があったが、ローレンツはそんな指輪などなくても動物と意思の疎通ができるという意味を込めて『ソロモンの指輪』を書き上げている。世の中に影響を与えた有名なところでは、ローレンツはそこにハイイロガンの雌のひなの行動から、刷り込みという現象を述べている。幼少期における短期間の、やり直しのきかない学習が重要であることは、「三つ子の魂百までも」が動物から検証されているように思える。

 しかし、初めて『ソロモンの指輪』を手にした時に、最も印象に残ったのは、アクアリウムに関わる部分であった。物心ついた時から、なによりも好きだったのは甲虫類と水生動物だったからである。特に心を捉えて放さなかったのは、以下のアクアリウムに関する一文、ある水槽の中の話である。

 「それはたいへん大きくて深く、冷たく、あまり光の置かれない場所に置かれ、水晶のように澄んだ水の中には、ガラスのように透明でうすい緑色のヒルムシロ科の水草が育ち、底の石には暗緑色のシミズゴケや美しいシャクジモが生えていた。大きな動物としては数匹のごく小さなマスやハヤと、小さなザリガニが一匹入れてあるだけだった。これが野外での実際の生息密度にほぼ相当するのである」(コンラート・ローレンツ『ソロモンの指輪』)。