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 この連載ではカイゼンとITの連携でコスト削減をはじめとする経営革新を実現した事例を紹介していく。

 そもそもITは現場改善コンサルタントによく目の敵にされる。その理由には以下のようなものが、挙げられる。

  • 生産管理システムは計画主導型の仕組みであり、現場改善の考え方と合わない
  • 現場改善を進めるなかで、ITの変更が必要になってもすぐに変更できず、現場改善がストップしてしまう、などだ。

 確かに指摘の通りだろう。しかし、企業が財務報告をするうえで実績データは欠かせない。なので必要最低限のITによる実績入力は避けることはできない。そうなると改善が進むにつれて次のような課題が出てくる。

  • 大きな単位(ロット)から小ロット生産に移行するなかで、計画対象のロットが増えて計画立案工数が増えてしまった。
  • 実績収集対象となるロットが増えて、作業完成入力や部品出庫入力などコンピュータへの入力工数が増えてしまった。

 多くの工場では現場改善により小ロット化が進められているが、小ロットになれば、その分入力工数が増え、現場を駆け巡る情報も増える。「現場改善が進むのであれば情報を扱う業務に負荷がかかるのはしょうがない」というわけにはいかない。現場改善に伴ってITの連携が必要になってくるのだ。

 では、この連携をどう進めるといいのか。この課題を解決した例として、ホシザキ電機を紹介する。

 ホシザキは3年間で営業利益率(単独決算)を8.0%(2008年)から11.8%(2010年)と大きく高めることに成功。2011年も増収を見込むなど堅調な経営を続けている。それを支えるのは改善とITを連携させる地道な取り組みである(図1)。

図1●ホシザキ電機の生産・IT改革の経緯と内容
図1●ホシザキ電機の生産・IT改革の経緯と内容
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 ホシザキは業務用厨房機器の最大手メーカーとして知られる。

 一流ホテルや有名飲食店、さらに大手ファストフード店や街の居酒屋まで、実は日本の多くの飲食店にホシザキ製の機器が置かれている。皆さんの中にも居酒屋の厨房に同社のロゴである「ペンギンマーク」が付いた業務用冷蔵庫や製氷機、ビールサーバーを見た方もいるのではないだろうか。最近では電力不足に対応した省エネ型商品も投入され、売り上げを伸ばしている。

見込み生産を絞り込み、小ロット体制に変わる

 同社の業務用冷蔵庫は顧客の用途や厨房のレイアウトに合わせて提案できるよう、その製品の種類は現在では1800にもなる。それもあって顧客のホシザキ製品に対する支持は高い。

 しかし、製品の種類が増えるに従って製品在庫は増えてしまう。在庫を抱えれば抱えるほどその管理費は増え、売れ残りの廃棄リスクも高まる。また一方で、在庫を抱えても必ずしもお客様からの注文の製品に合うとは限らず、在庫が無ければ他の製品を改造して出荷することもあった。在庫を抱えるリスクと完成品改造による無駄なコストが問題視されていた。

 そこで2003年から「プロセス改革」と題して、売れ行きに応じた生産体制の整備に取り組んだ。さらに2007年からはパターン生産の計画立案ソフトウエアの個別開発に着手し、生産現場とITの両面から経営強化を進めている。

 まずプロセス改革の要点は、見込み生産の削減にある。

 販売量の分析の結果から、見込み生産する製品を絞り込んだ。年間240台以上の製品のみに限定し、30台以上239台以下の製品は売れた分だけの補充生産、29台以下の製品は在庫を持たない受注生産品とした。よく売れるものは見込みで作るが、そうでないものは売れた分だけ補充する、あまり売れないものは注文をもらってから作ることで製品在庫を減らそうとした。

 それに並行して生産単位(ロット)の小ロット化を進めた。大ロットだと効率的に組み立てられるが1カ月の間に組み立てる回数は少なくなる。そうなると売れ行きに応じて柔軟に組み立てられなくなる。そこで多いもので1ロット数十台あった生産ロットを順次少なくし、2003年には6台ロットにした。

 生産ロットの小ロット化はトヨタ生産方式や、工学から生産管理を見直す「インダストリアル・エンジニアリング(IE)」を使いながら、現場改善を推し進めた。

 小ロット化によって組み立てラインへ供給する部品の切り替え回数が多くなるので、部品供給をスムーズにすることにも取り組んだ。

 生産ラインで小ロットでの組み立てを進める傍らで、事務オフィスでは毎週1回、2人の生産管理担当者が表計算ソフトを使って深夜まで生産計画を立案するようになった。生産計画の立案では製品ごとに月間生産台数を6台ロットで構成し、それを日単位に割り付けていった(図2)。

図2●ホシザキ電機の生産単位の変更の流れ
図2●ホシザキ電機の生産単位の変更の流れ
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 ロット数を小単位にすることで、生産の組み合わせ(曜日と製品)は以前の数倍になっていた。

 「週末になると生産計画の立案で、私と部下は深夜まで残業でした。さらに小ロット化が進んだらもう人手ではやりきれない状況でした」と当時生産管理課長だった浅井常善主事は話す。

 1ロット6台生産が軌道に乗ると現場はさらなる小ロット化に踏み込んだ。今度は「パターン生産」である。1ロット6台生産は、月間の台数が多い機種は毎日生産することになるが、生産台数の少ない機種は数日生産するだけで終わってしまう。中には1カ月に1回のみ生産というものもあり、お客様から注文があっても次の生産は1カ月後ということもあった。