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 つまらないと思う仕事を依頼されると、やる気が下がり、仕事の効率や生産性が低くなる。PMにとっては、メンバーがそんな状態に陥るのは是が非でも避けたい。しかしPMは往々にして、メンバーにその人がつまらないと思う仕事をアサインし、やる気を大きく下げてしまうことがある。そんなPMのAさんの話を紹介しよう。

 Aさんはフリーランスのプログラマとして腕を磨き、数年前にS社に転職してきたベテランエンジニアである。ここ数年はPMとして頭角を現し、今回、大規模プロジェクトのPMを任された。

 今回のプロジェクトは規模が大きいこともあり、実践経験を積ませる目的で、経験の浅い若手エンジニア3人が参加することになった。その人件費はプロジェクトの費用から外されるので、PMのAさんは3人を戦力としては期待していなかった。

 その若手エンジニアのなかには、プログラマとして抜きんでたスキルを持つTさんがいた。Tさんは、学生時代にプログラミングを始め、S社に入ってからは自宅にサーバーを構築して勉強するなど、自己研鑽を重ねてきた。最近では、プログラミングに関する公的資格に加え、主要なベンダー認定資格も取得するなど、プログラミングについては中堅エンジニアに引けを取らない実力を持っていた。Tさんは、今回の大規模プロジェクトを、自分の腕を試す良い機会だと捉えていた。

 ところがPMのAさんは、プロジェクトの参加メンバーリストで、Tさんのプロフィールを見て、プロジェクト事務局に配置することにした。「プロジェクト事務局で庶務を担当させながら、大規模プロジェクトがどういうものかを経験させればいい。しっかりと若手を育てるには下積みからだ」と考えたのだ。

 このアサインにTさんは納得がいかなかった。Aさんと2人で会い、「小さなサブシステムでいいから実装を担当させてほしい」と直談判した。この訴えを、Aさんは頑として聞き入れなかった。フリーランス時代の自分自身の経験を基に、「今回のプロジェクトは若手のプログラマには荷が重い」と繰り返すばかりである。Tさんは折れずに、「私が書いたプログラムを見てください」と懇願したが、「プログラムなど見なくても、だいたい実力は分かるよ。私も若いころプログラマとして働いていたから」と一蹴した。

 その結果、Tさんを含む若手3人は、プロジェクト事務局で庶務を担当することになった。具体的な役割は、議事録の作成、進捗の確認、資料のコピー、会議の招集、事務用品の手配などだ。Tさんはこうした仕事をこなしながら、不満をますます募らせた。「こんなつまらない仕事ばかりじゃ、やっていられない。この会社にいても、若いというだけで、腕を生かすチャンスをもらえない」と考えるようになっていった。そして結合テストが終わり、プロジェクトの完了が見えたころ、Tさんは退職していった。

 有望な若手エンジニアを失ったことは、S社のなかで問題となった。PMのAさんにとってもショックな出来事になった。